邂逅

「ねぇ、雨月あれ何?」

「ああ、あれは……」

 ショーウインドウ越しの向かいの歩道に映った人物に目を奪われた。

 彼女を覚えていた。

 年数が経って姿は少し変わっても覚えている。

 彼女の声、匂い、手の感触。

「ちょ、翼⁉」

 雨月を押しのけ、ガードレールを飛び越え、車の上を跳ねる。クラクションが鳴り、周りの人々がざわめく。

「会いたかったっ……!」

「ちょ、何あんたっ!」

 翼に突然抱きつかれた女は驚いて声を上げる。

「覚えてない? 僕だよ! 翼だよ!」

「あんたなんて知らない! 離れて!」

「離れて」という言葉を聞いて、女の隣にいた男が翼を引きはがした。翼の眼には女しか映っていなかったため、突然割って現れたように見えた。

「とりあえず落ち着いてくれ。君も一旦離れて」

「誰だよ、お前!」

 翼が男に向かっていこうとするのを追いかけてきた雨月が止める。

「翼、どうしたの……?」

 雨月は翼と二人の男女を見詰める。

「すみません。うちの連れがご迷惑を」

「いえいえ」

 冷静な二人が、とにかくこの場をどうにか収めようとしている。

「もしよろしければ、何処かでお話しませんか?」

 雨月は、恐らくこの女が、翼が探している飼い主だろうと気付き、何とか話をしようと考えた。

「ええ、はい。……どうする?」

 男は隣の女に尋ねるが、女はけだるそうに答える。

「え~、私パス。テキトーに話しといて」

 もうその場から離れようとする女を翼が追いかけようとするが、雨月が止める。

「私あそこで服見てるから」

「待って!」

 翼の声を丸っきり無視して女は去っていく。

「すみませんね。ああいう子なんです」




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