炬燵と灸

翼が白夜と共に仕事から戻ると、雨月が赤い半纏を着て炬燵と一体化していた。

「わっ、何これ⁉ 雨月、目がとろ~んとしてるけど大丈夫?」

「おかえりなさい」

 割烹着姿の弥生が二人を出迎える。厨房からは肉や野菜を煮込んでいるような香ばしい香りが漂っている。

「今夜は鍋か」

「これは、こたつって言ってね、入るとほっこりするんだ。翼も入ってみなよ」

 雨月が、とろんとした目で翼を誘う。

「その前に手洗いうがいと着替え!」

 弥生がビシッと洗面所の方を指差す。

「は~い」


 翼は部屋着に着替え、居間に戻って来る。

「こたつ、お邪魔しま~す」

 翼が炬燵に足を入れ、雨月の足とぶつかる。

「あったか~い」

 白夜も部屋着に着替えてきて、炬燵の中に入る。

 それと、ほぼ同時に弥生が鍋を炬燵の上に置く。

「今日は鶏野菜みそ鍋よ」

「わぁ、いい匂い」

 それぞれ取り皿が行き渡ったところで「いただきます」をする。

「ほくほくして美味しいよ、弥生ありがとう」

「翼は鍋初めてだけど、喜んでもらえて良かったわ」



 夜更けだった。

 翼が小便に目を覚まし、厠に向かう。道中、灯の点いた部屋から何か唱える声が聞こえた。

「白夜、何してるの?」

 襖をちょいと開け、中を除き込む。白夜は着物の上をはだけて、肩の辺りに湯気の出る白いものを乗せていた。

「何だろ、これ……あっつ!」

「馬鹿か、触るな」

「なぁに、これ?」

「灸だ」

「きゅう?」

「身体の疲れが癒されるのだ」

「僕もやってみようかな」

「貴様、若い癖に灸に頼るな。そこまで不調ではないだろう」

「うん。元気だよ」

「なら良いだろう。自分の部屋に帰って寝ろ」

「白夜は年寄りだから灸をしてるの?」

「わ、私が年寄りだとっ⁉」

「違うの?」

「この肌を見ろ。ぴちぴちだぞ」

「見た目だけね」

「これも私の日々の健康管理が行き届いている証拠だ」

「すごいね」

「そうだろう、そうだろう」

 翼は、続けて白夜の自慢話が始まらないうちに自室へと帰った。



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