中秋の名月

 白夜が縁側に寛ぎながら酒をちびちびと呑んでいる。

「今宵は満月か」

「んー、毎月あるじゃん」

 翼が月見団子をはむはむ食いながら言う。

「でも何か今日は特別だね。お団子がある。それにふわふわした長いのもある」

「ああ、それはススキだな。収穫物を守る魔よけのような役割もある」

「今日は中秋の名月と言った特別な日なのよ」

「うーさーぎ、うさぎ、なに見て跳ねる」 

「わっ、雨月、何その歌? うさぎの歌?」

「少し前に出たわらべ唄だな」

「少しではないけど……。十五夜の歌だよ。満月の模様がうさぎに見えるから、うさぎが使われたんだと思うけど」

「満月の模様がうさぎ?」

 翼が目を凝らして満月をみる。

「うーん、うさぎには見えないけど」

「うん、私もうさぎには見えないわ」

「何故、月にうさぎなのかと言うと、インドの物語由来説があるね。昔、猿、狐、兎が一人のみすぼらしい老人に出会う。狐と猿は食料を採ってきて老人にあげたけど、兎は何も採って来れない。それで自分自身を食料として老人に捧げた。実はこの老人は帝釈天という神様で、兎の献身に感動して月に昇らせたってお話」

「へぇ、自分を食べてもらうか、そんなこと僕にはできないなぁ」

 翼は、そう言いながら、団子をもう一つつまんだ。


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