お風呂

               ◆


「千歳~、お風呂入れて~」

「は、え、お風呂?」

 いくら常識知らずの家出少年とはいえ、男女が一緒にお風呂はヤバい。

「それくらい自分で出来るでしょ。ここ捻ったらシャワー出るから! 温度調節はここ!」

「こう?」

「ちょっと!」

 千早が蛇口を捻って、シャワーが噴射される。私と千早は服がびしょびしょになった。

「これがお風呂?」

「違う! こっちはシャワー。お風呂なら水張らないと」

「そうなんだ!」

「その前に服も脱がないと」

「そうなの?」

「当たり前でしょ」

 服脱ぐことも分からない……? やっぱり、この千早は……。

 そんな突飛な考え、有り得ないと思ったけど……。

「服、脱いだよ~」

「きゃあああ、こっちに見せないでよ!」

 千早の下半身にタオルを巻かせ、シャワーのやり方、身体の洗い方も教える。

 何とか一人で出来るように言い聞かせ、風呂場の扉を閉じた。


「千歳~、一緒に寝よう!」

「ダメ! 千早はあっちのソファで寝て! 毛布は貸してあげるから」

「ダメ?」

「そんな上目遣いで見てきても、ダメ!」

 動物なら可愛いが、年下男子にやられるとキツい。

 ここでも何とか共寝を拒否し、寝かしつけをする。

「じゃあ、灯消すから! おやすみっ!」

「おやすみ~」




               ◇


 ある夜のこと。

 千歳の部屋で寝ている千早を月明かりが照らす。

「う、うん……」


「時間だ」

 窓枠に白夜が腰かけていた。

「そう。思ったより早かったね」

「ん? どうしたの、千早?」

 千歳が目を覚ますと同時に、白夜の姿は消えていた。

「そろそろ行かないといけないんだ」

「行くって何処へ?」

「お空の上」

「ねえ、やっぱり千早は、あの千早だったんだよね」

「うん、そうだよ。今までありがとう」

「千早! 行かないで!」

 千歳が千早に手を伸ばす。

 しかし、千早は光に包まれ、手を取ることが出来ない。

「待ってるから。なるべく、ゆっくり来てね」

「千早……」

 千早は光に包まれ、昇って行った。

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