黒柴

                 ◇


 白夜、弥生、翼の三人は依頼人の家に来ていた。

「それで、ご依頼の内容は?」

「ええ、どうも家に幽霊が出るようでして……」

「部屋の中を走り回る音がしたり、犬の鳴き声がしたりするんです」

「犬の鳴き声ですか」

「はい。これは私の予想なんですけど、死んだ飼い犬が化けて出たのではないかと」

「化けて……。失礼なことをお伺い致しますが、何か心当たりでも? 例えば、その犬を虐待していたとか」

「とんでもない! とても可愛がっていました。餌を与えるのも欠かしたことはなかったし、散歩だってほぼ毎日していました。特に、今は東京で一人暮らしをしていますが、娘が可愛がっていて。そんなことは決してありません! 私達に何か伝えたいことでもあって、化けて出て来ているのではないか、と」

「分かりました。……彼と話してみましょう。白夜様、お願いします」


 白夜が呪を唱えると、黒い柴犬が現れた。

 その柴犬に話を聞いてみると―――――

「つまりは、ちょうど死に目に会えなかった娘に一言、育ててくれたお礼が言いたいと」

「はい。でも、僕はここから離れられなくて……」

「地縛霊だからな」

「ねえ、白夜、何とかならないの?」

「何とでもなるだろう。貴様と土地との縛りを断ち切ってやればいい」

「そんなこと出来るんですか⁉」

「出来るに決まっているだろう。私を誰だと思っている?」

「ふん、エラソーに」


「この私が貴様の成仏を手伝ってやる」


「千早君も僕と同じなの?」

「違う。貴様は妖怪だが、あいつはただの幽霊だ」

「何が違うの?」

「まあ境界が曖昧なところもあるが、とりあえずは実体のあるなしだ。後は執念の強さだな。貴様の方が執念深いと見た。最も、貴様自身がその執念の原因を思い出していないが」

「だって、分かんないんだもん! キオクソーシツってやつ?」

「ふん。早く思いだすことだな」



「千歳の匂いがする!」

 白夜達は娘の千歳の自宅周辺を歩いている。

「じゃあ、この辺で待ってて、千歳さんが来たら話しかけてみるってことでいいかしら?」

「うん、頑張る」

「朝は学校で忙しいから、帰りの方でね」

「うん、分かった」


 こうして、千早と千歳の同居生活は始まったのであった。

 

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