かまいたち
次の日。学校にて。
「池田さん、おはよう」
「おはよう」
「僕もトゥイッター始めてみたんだ」
「じゃあフォローしとくから、フォロバして」
「うん」
その日の夜。
「ねえ、見て見て」
「ん? 何?」
「こんなこと書いちゃダメじゃない?」
池田のトゥイートに変なリプが付いていた。
「お前なんか嫌い」などの罵詈雑言だった。
「そうだね。ギリギリ、トゥイッターの規約違反にならないけど、言われたら嫌だね」
雨月はメディアリテラシーが翼に根付いているのを嬉しく思った。
そして、そのリプを送っているアカウントから禍々しい気配を感じた。
「かまいたち……。何か嫌な予感がするな」
次の日。
池田が足に包帯を巻いて登校した。
「池田さん、大丈夫⁉」
「何か昨日の夜、突然、切り傷みたいなのが出たんだ」
ただの切り傷なので、痛いのは痛いが、命に別状はないとのことだった。
放課後、翼は池田の怪我のことを雨月に報告した。
雨月が調べたところによると、原田と中森も怪我をしていた。二人のトゥイッターをフォローしている翼は、二人のトゥイートにも「かまいたち」からリプが来ているのを発見した。
「白夜様、これ」
雨月は「かまいたち」のアカウントを見せる。
「憑いているな」
「はい」
「かまいたちと言霊が合わさって、彼女達に傷を負わせていると思います」
「かまいたち」とは鎌のような爪を持って、人間を斬りつける妖怪だ。
「ふん。かまいたち如きが。今すぐ祓ってやる」
白夜は雨月のスマホに呪を唱える。
すると、かまいたちのアカウント画面から、細い糸のようなものが出て、延びていた。
その糸を辿っていくと、百葉箱に辿り着いた。
百葉箱を開くと、イタチがスマホを持って、ちょこんと座っていた。
「おい」
「ひっ、化け狐!」
白夜に、いつの間にか七尾が生えて、百葉箱の前で仁王立ちをしていた。
スマホを取り上げると「返してくれ」と叫んだ。
「おいらは、それで遊んでたんだ! 人間の前に現れなくても斬れるから」
「言葉の鎌か……」
「もうこんなことをするな。山に帰れ」
「嫌だ! 山は何もなくて面白くない! ここは人間がいて、面白い機械もある!」
「人間と繋がっていたいのか」
雨月は何となく気持ちが分かるような気がした。
「だったらさ、こんな言葉じゃなくて、もっと楽しい言葉、言われて嬉しい言葉を呟こうよ」と翼は提案する。
「楽しい言葉?」
「嫌いじゃなくて、好きとかさ。そうだ! 僕と友達になろうよ!」
翼は自分のスマホを出した。
「白夜、スマホ返してあげて」
白夜は渋々、かまいたちにスマホを返す。
「ほら、フォローしたからフォロバしてよ」
「う、うん」
かまいたちがスマホを操作する。
「これで、僕達、友達だね!」
「あ、ありがとう……?」
「また、リプとかしてよ」
「うん!」
「これで解決かな。翼、お手柄だったね」
「うん!」
この先、あの学校の生徒達に斬りつけ事件は起こっていない。数日間だけの転校生のことも次第に話題にも出さなくなった。
しかし、翼とかまいたちは今も仲良く、やり取りを続けているらしい。
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