大仏
「ねえ、本当にコマさんはここを離れてもいいの?」
「吾輩はいいんにゃが……、心残りはある」
「心残り?」
「うむ。吾輩は立派な猫にゃのだが、ここの舎弟達が一人前ににゃれるか不安なのにゃ」
コマは翼の膝の上から降りると、キャットタワーで寝ている猫に近寄っていった。
「おい、大仏」
大仏と呼ばれた猫は丸々と太った白ブチの雄猫で、キャットタワーで鎮座していた。コマが何度か呼びかけて、やっと目を覚まし、のそっとタワーから降りてきた。
「にゃんですか?」
寝起きなのか素なのか分からないが、大仏はけだるそうな口調で答える。
大仏は猫又ではなく普通の猫であるが、コマが言葉を教えたので猫同士での会話は勿論、人間の言葉も少し分かるようになっていた。人間には、にゃあにゃあ言っているようにか聞こえないが、翼や白夜など妖のものとは普通に会話ができる。大仏以外にも、ここの猫達はコマからの教育を受けており、その辺の野良猫よりかは自我がある。
「おみぁは、いつもいつも寝てばかりで、働いているという自覚が足りんのにゃ」
「でもぅ、こうやってて寝てても人間共はかわいいかわいい言ってくれるじゃにゃいですかぁ。これも立派な労働ですよぉ」
「確かに吾輩達は、にゃにをしててもかわいいにゃ。でも寝てばっかりのおみゃあと頑張って働いてる奴が同じ給料にゃのは不公平だにゃ」
「俺は人間に媚びるのが苦手にゃの、先輩も知ってますよねぇ」
「おみゃあが、にゃまけもんにゃのは来た時から変わらんが、そろそろにゃおさにゃいとダメにゃ。ほれ、今日もお手本を見せてやるから」
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