コマと翼
店内は落ち着いた雰囲気で、所々に一人がけクッションや漫画の棚、猫のおもちゃが置いてあった。猫達が自由に歩き回ったり、じゃれあったりしており、人間はその猫達を撫でたり写真を撮ったりと、思い思いに過ごしていた。人間のスタッフも数人おり、皆揃いの紺のエプロンを付けて、受付や猫の世話などをしていた。
翼は普通に猫と遊んでおり、弥生は猫と触れ合いつつも、従業員からこのカフェやコマについて話を聞いたりしていた。白夜はというと、彼の独特な気を察知したのか猫を一切寄せ付けず、本人も猫カフェにいるのに全然猫に近付こうともせず、ただ座っているだけなので、他の客からも若干引かれていた。従業員には「多分、奥さんと息子さんに言われて渋々一緒に来たけど動物が苦手なお父さんだろう」と思われていた。
「あっ、コマさんだ! こんにちは~」
子どもが看板猫を見つけ近寄っていく。彼はいつものサービスで、子どもの膝の上に乗って撫でられてやる。
「おみゃあ、どっかで見たことあるにゃ」
コマの声は普通の人間には「にゃあにゃあ」言っているように聞こえるだけである。
「白夜ん家で会ったよ」
「にゃんか、ちっちゃくにゃーか」
「小さい方が自然なんだって」
「ふうん」
「白夜と弥生も来てるよ」
翼は二人の方を向いて教えてやる。
「にゃんか、少し雰囲気が違うにゃ」
「へんそーしてるんだって。白夜は目立ちすぎるから」
「あの態度はどうにかした方がいいにゃ」
見た目だけは現代風に擬態できても、中身はプライドの高い年寄り妖怪のままだ。
「おい」
コマの目の前に白夜の顔があった。座っている翼の膝の位置まで白夜が屈んで、コマにメンチを切っているように見える。
「来てやったが、どうする?」
どうする、とはコマがいつ死ぬのか、つまりはこの猫カフェからどう離れるのかを意味していた。
「まだ心の準備が……」
「まあ今すぐに死ねとは言わん。別れの挨拶が済んで、貴様の心が決まったら教えろ」
白夜達は死ぬだのと物騒なことを話しているが、周りの客や従業員は全く気にも留めていない。これは白夜が空間全体に、呪をかけているからだ。普通の人間には、コマが話す言葉も聞こえないし、白夜の発する物騒な単語も、何てことはない言葉に勝手に変換される。例えば、白夜がひたすら「ねこかわいい」と言い続けているように聞こえた者もあるかもしれない。
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