現世の服装
次の日の昼。
「ここから外の世界に行くんだね」
化野邸の鳥居は幽世と現世を繋ぐ門の役割を担っている。ここから全国の稲荷神社に繋がっており、仕事場がそこから離れていれば後は自力で向かわなければならない。公共交通機関を使ったり、タクシーを使ったり、と移動手段は様々なため、白夜のサポートに雨月か弥生が就くことになっている。実際、白夜一人だと電車にさえまともに乗れないのだ。
「それでは行きましょうか」
先導を務める弥生は鳥居を潜り歩き出す。服装はいつもの割烹着や巫女服ではなく、膝下丈のワンピースにカーディガン、靴はリボンの付いたローヒールのものを履いている。髪も横に一つに縛りシュシュを付けている。
「弥生が選んでくれたこの靴、とても歩きやすいね」
翼はジャケットにTシャツ、少し緩めのパンツ、紐のないスニーカーという格好をしている。勿論、兎耳も見えなくなっている。現代風の服を初めて着るため、弥生や雨月と一緒に選んだものだ。
「喜んでもらえて嬉しいわ。一緒に服を選ぶのも楽しかったし。翼は今風の文化にすぐ馴染めそうな気がするわ」
「ふん」
現代社会から取り残されている老齢の陰陽師はバツが悪そうにそっぽを向いた。翼が現代の若者のカジュアルファッションならば、白夜はセミフォーマルファッションという感じであった。
白夜との現世の外出は面倒くさいことを弥生は重々承知していた。まず、デニムやジャージなど現代の若者のラフな格好は好かんと言って、着物での外出を所望してくる。基本的に京都など古都に行くとき以外の場合、これは却下される。何やかんやあって、カッターシャツにフォーマルパンツ、ジャケットに落ち着く。これにもボタンやベルトが面倒だの文句を言い、靴を履く頃にはすっかり不機嫌になっている。ちなみに金髪ロングの美青年は目立ちまくるため、黒髪短髪の美青年に変化している。
石段を下りきると、いつの間にかコマの勤務地の最寄り稲荷神社に到着していた。
「じゃあ案内していくわね。はぐれないように付いてきてね」
「はーい」
弥生は元気よく返事をする翼を微笑ましく思った。
(はぐれないようにしてほしいのは白夜様もなんだけど)
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