君の名は?

夢を見た。

 温かい膝の上に乗り、優しい掌で撫でられている。


「_____________ 翼 ________________」



「何だ、それは。貴様の名前か?」

 兎の少年が発した寝言に白夜は問いかける。

 夢の中で、そう呼ばれていた。「翼」という名前は自分にとって、とてもなじみ深いような感じがした。多分それは自分の名前だと思う。

「……うん」

 喉の奥から意識して音を出す。これが言葉というものか。

「とりあえず起きろ」

「わかった」

 翼は布団から身体を起こし、白夜の方を向く。いつの間にか、先ほどの二人の童子も側に控えていた。

「貴様の名前が分かった所で、こちらも名乗るとしよう」

 男は自信に満ち溢れた声で言う。

「化野白夜。最強の陰陽師だ」

「あだしのびゃくや」

「そうだ。白夜様と呼べ。私を崇め讃えよ」

「白夜様、そんな難しいこと言っても、翼は分からない」

 女の童子がツッコミを入れる。

 その後、彼女は一回転する。元の位置に戻った時には、二十歳ほどの女性に変化していた。割烹着を着た、ふんわりとした雰囲気の女性である。

「さっきはごめんなさいね。突然お尻の匂いを嗅がれたものだから、びっくりしてしまったの。まさか気絶するなんて、力加減を誤ったわ」

 女性は翼の側に座り、頭を撫でる。

「私は弥生。よろしくね、翼」

「やよい」

「うん。よろしくね」

 にっこりと笑った弥生は、もう一度、翼の頭を撫でる。

「僕は雨月」

「うげつ」

「まあ、よろしく」

 反抗期の子どものようにぶっきらぼうな口調であった。

「しばらくはここに置いてやる。その間の世話は弥生と雨月に任せる」

 まだ説明が足りないところがあるが、弥生も雨月も、白夜のこの調子には慣れていた。とりあえず後でゆっくり、言葉でも教えながら世話をしてやるかと思った。

「では私は忙しいので、後はよろしく頼む」

 白夜はそう言うと、さっさと自室に帰っていった。

「さて、まずは、この野性味溢れるかほりをどうにかしましょうか」

 翼はくんくんと自分の身体を嗅ぐが、よく分からないと言うように首を振る。自分の身体の臭いについて言っているような気がするが、いつもと変わらない臭いだ。

「雨月、お風呂に入れてあげてくれる?」

「分かった」

 その瞬間、雨月の身体が変化し、童子から成人男性の姿になった。煙と共に背格好が変化した雨月に翼は目をぱちくりさせる。

「じゃあ行くよ。風呂場はこっち」

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