Curse Of Love ―恋の呪い―

「……人の顔を見るなり犯人呼ばわりって。私は何も悪いことはしてないと思うけど?」


 菫崎七実は怪訝な顔で俺達を眺めていた。


「ええ、こちらの話ですもの。貴女は悪いことはしていませんわ」


 妹子が艶やかな笑みを見せる。菫崎は一瞬言葉に詰まったが、すぐに「そう」と返した。


「先生、補習の時間がそろそろ終わりますよ」

「……おう。サンキュ」


 上手く喋れていたか? 謎の緊張に、身体が強張っているのを自覚する。

 彼女の姿が廊下の向こうへ消えていった。同時に、双子の腕が剥がれる。


「妹子、満足した?」

「もちろん、兄一郎」

「待てってこの天上天下唯我独尊ゴーイングマイウェイペースツインズが!!」


 何も分からん。俺が止めると探偵達は楽しげに振り返った。


「どうして彼女に辿り着いたか」

「先生も気になさるのですか?」

「気になるっつーか……」


 声量を落として続ける。



「菫崎は蘇芳のことが好きなんだろ。どうしてそれが俺への呪いみたいな状態になるんだ。やっぱりお前らの考えすぎじゃねぇのか?」



 2人は目を丸くしていた。

 先に発声したのは、兄一郎。


「気づいてたの? ヘビーメタル級に鈍そうな先生が?」

「どういう意味だコラ」


 失礼だな。

 妹子が1度咳払いをして話し始める。



「先生への質問に回答させていただくと、端的にだと思われますわ。


 先生の推理通り、菫崎七実さんはおそらく蘇芳仰さんを好いていらっしゃいます。

 ――だからこそ、彼から依存心あいを向けられていた貴方を憎らしく感じた。


 ですが菫崎七実さんは先生個人を嫌いになれなかった。貴方を嫌うことすらできなかった。


 だって貴方のことを


 様々な矛盾を溜めて溜めて溜めて、そうして彼女は壊れる一歩手前で貴方を呪い始めた。


 貴方が善人であること。教師であること。蘇芳仰さんから依存されていること。

 貴方の立場に自分が成り代わることはないという事実。


 自分が苦しむ要因を呪って呪って呪って。だけどそんな醜い自分が嫌いで嫌いで嫌いでたまらなかった。


 だって彼女は


 だから貴方には不幸が起こらなかった。呪われているけど呪われていない、不思議な状態になっていらっしゃったのです。


 以上が私の推理。嫉妬による呪縛です」



 ニコッと天女の笑顔を見せて、墨黒妹子の推理は完成した。


 続けて兄一郎が論理的推理を展開する。



「彼女が補習組を呼びに来るとき、メインで探していたのは蘇芳仰君だった。学年の違う青薔薇五十美さんはオマケだ。


 それは蘇芳仰君の証言、『委員長に引きずり出されそうになった』でも確認できる。


 そもそも、彼女はどうして彼を探していたんだい? 補習組を連れてこいって指示された? その指示をどこで誰から受けた?


 それは彼女自身が証言していた。青薔薇五十美さんに対して『先生に呼ばれていた』って。


 補習担当の先生に会った。つまり補習の現場に向かったんだよ。

 なぜそんなことをしたのか。彼女は優等生、補習を受ける必要はない。なのにどうして。

 そこで、妹子と先生の推理。菫崎七実は蘇芳仰に好意を寄せているという真実。


 ――彼女は蘇芳仰を見に行ったんだ。


 そして、そこに当人がいなかった。だから探した。探して逃げられて追いかけた。そこで、先生と遭遇したって訳だ。


 単なる補足になったね。この手合いのことにおける論理性なんて、砂上の楼閣さ」



 ニコッと王子の笑顔を見せて、墨黒兄一郎の推理は完成した。


 妹子は不思議そうな顔で俺に問いかける。


「先生が彼女の感情に気づいていたとは思っておりませんでした。なぜ分かったのですか?」


 それは単純だ。頭を掻きながら答えた。



「蘇芳のことを自主的に気にかけてくれたからだな。あとは見たままってところだ。


 あと、俺を呪っているのがあいつかもしれないっていうのは、体調不良になっているっていう側面から考えた。なんか顔色悪かっただろ」



 2人は黙った。変な沈黙に包まれたせいで、うかつに身動きもできない。なんでそんな反応になるんだよ。

 今度の発声は妹子からだった。どこか嬉しそうにも見える笑顔で、言う。


「先生って生徒のことをよく見ていらっしゃるのですね」


 今さらかよ。

 兄一郎が「とりあえず」と両手を挙げる。


「これにて事件解決だ! さて先生、ご褒美にご飯奢ってよ」

「は?」

「私はスイーツパラダイスというところに興味がありまして」

「は?」

「それいいね、僕も糖分が恋しい」

「たくさん頭を使いましたものね」

「は?」


 まさか最初からこれが目的で。


「スイパラはもう閉まってるに決まってるわ、このアホンダラ共ーーー!!!」


 訳分からん、こいつら。




「つかそれならアフターケア要望するぞ」

「とりあえず頭から塩被っといて」

「どこかのお寺にお逃げあそばせ」

「コーヒーと紅茶はやっただろ!!」

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黒百合兄妹の呪術捜査 緋衣 蒼 @hgrmao

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