第7話 来客
目を開けるとそこには鳥の顔面があった。
般若(はんにゃ)の面のように目は吊り上がり、血走っている。
"なぜ此処に居る!"とでも言いたいのか。しかし怒りのあまり鳴くことはせずに、ただただヒトミの顔面に迫ってくるのだった。
「いや、嫌!!」
あぁ、私はこの鳥に怒られている!なんで?
ーーー早く逃げなきゃ。
しかし下半身に力が入らない。立ちあがろうと足を地面につけるも、カクン、とへこたれてしまう。
呼吸が荒くなり、全身から汗が吹き出した。そして緊張のあまりか便意を催した。
座ったまま、腰を引きずって玄関の引き戸まで行こうとするが、それと同時に、鳥も、一歩、また一歩と近づき、ヒトミから顔面を逸らそうとしないのだった。
「おねがい……たすけて……」
ヒトミはか細い声で言った。
バンバンバンバン!バンバンバンバン!
「ひっ!」
バンバンバンバン!バンバンバンバン!
鳥は味を占めたのか、嘴を鳴らし始めた。
やはり威嚇されている。
そして、ヒトミの腕を嘴の鋭いところでくわえ始めた。
「やめて!やめて!」
腕を隠そうとするが、しきりに同じところばかりを噛んでくる。
「痛い!や!やめ!」
玄関の引き戸まで手を伸ばす。鍵を開ける。
ーー開かない。
「嘘……」
お構いなしに、鳥は噛み付くことをやめてはくれなかった。
「い、痛い!」
叫ぶが、それも虚しかった。
何度も何度も噛みかかり、嘴が刺さる。とうとう血が滲んだ。同じところばかりを無心で噛む鳥。
ーージュッ。ジュッ。ジュッ。ジュッ。
どれくらい経っただろうか。
ヒトミは抵抗する力を失い、半分気絶していた。
目を開けると、状況は変わらず、無心でヒトミの腕を食う鳥が居た。
肉が抉れ、血が飛び散る。焼けるように痛い。滴る血は生暖かい。
「お願い……」
天井を仰いだ。
痛みで気が飛びそうだ。自分の身体が冷たくなっているのを感じた。
ーーこのままだと、本当に死んじゃう。
ヒトミは力無い声で言った。
「やめて……」
ヒトミは再び目を閉じた。
震える呼吸。冷たい口の中で、できる限り息を吸った。そして息を吐き、もう一度、静かに吸った。
「助けてください!誰か!お願いします!誰か助けてください!お願いします!助けてください!助けてください!助けてください!助けてください!」
声の限り玄関に向かって叫んだ。声を出すたびに血が吹き出すようだが構わなかった。
墜落 キヅキケイト @storytellerdish
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