第6話 追憶

ヒトミは幼い頃、クマのぬいぐるみを持っていた。


名前を「くぅちゃん」と名付けた。

くぅちゃんは、いつも一緒にいた。どこに行くのも何をするのも一緒。お留守番の寂しい日も隣に居てくれた。


目を見ると、くうちゃんはいつも語りかけてくるのだった。

「君はどうしたいの?」

その優しげな眼差しに、ヒトミの心は素直になった。好きな絵を描き、時には人形を連れてきて家族をつくり、また、自由に歌を歌っていた。

だから、くぅちゃんのことはかなり気に入っていた。


くぅちゃんを太陽に当てると、その目は優しく光った。

太陽を透かした紅茶のような瞳の中に、真っ黒な瞳孔があった。

ヒトミは吸い込まれるようにくぅちゃんの目を見つめた。


人形だけれど、そこには意志があると、信じて疑わなかった。

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