目が覚めたら、隣に女の子。
美戸うり
第1話ダメ男と女の子
気づけば俺は、日常に女の子と癒しを求めるただの気持ち悪い奴と化していた。
「上司はこの量を俺一人で処理できるとでも思ったのかね…」
夜の10時を過ぎた都内。
ビル群が放つ夜景が東京の夜に光を灯す中、山積みにされた書類を前に頭を抱える俺は今にも泣きそうである。
今日は計20回ほど怒られただろうか。
ダメ男歴の長い俺にとっちゃあ、慣れた話ではあるけれど。
記すところが違う!とか。電話での対応が遅い!とか。
こういう時、可愛い女の子が隣にいたら違うんだろうな。
「はあ……」
向かいのデスクでは、後輩の陽花里ちゃんが帰る支度を進めているところ。
「系汰さんったら。そんなに落ち込まないでくださいよ」
黒いストレート髪と清楚な顔立ちが通りすがる人の目を奪うほど可愛い後輩。
可愛い上に優しくて…この俺を気遣って声をかけてくれる。
もちろん体のほうも言うことなしの完璧ボディ。
「陽花里ちゃんは優しいねえ…」
「またそんなこと言って。残りも頑張ってくださいね?」
陽花里ちゃんはニコっと微笑んでから、一礼して会社を後にした。
『けど彼氏いるんだよな…』
あんな美人の彼氏って。どれだけイケメンならなれるんだよ。
イライラしてきて頭を搔きむしる。
「こんなだから嫁と娘に出ていかれたんだよ俺」
妻と娘が俺の元を離れていったのは、一か月ほど前のこと。
家事もできない、勉強も教えられない、仕事もできない、ただの役立たず。
あまりのクズさに呆れて、出て行った。
「毎日こんなんで…クソっ!」
悔しくて大声を出したら、見回りに来ていた警備員を驚かせてしまった。
「今日も残業ですか藤原さん…」
「ですよォ…あの上司め…」
警備員は苦笑しているけれど、書類は明日までに仕上げなくてはならないやつだ。
「終わらせるまで帰れねえ…」
俺は誰もいない会社内で、一人文句を言いながら書類の処理を続けるのだった。
✿ ✿ ✿
「疲れた…」
12時過ぎ、ようやく書類を書き終えた俺は、家までの道をとぼとぼ帰っていた。
美しい夜景が、俺の心を今以上に虚しくさせる。
「女の子…癒し…」
もう口癖と化したこの言葉。
癒しと言えば女の子。女の子と言えば癒し、だろう。
とぼとぼ歩いてたどり着いた、自宅。
妻子のために買った一軒家も、今は俺しか住んでいない。
「ただいまー…」
入ってすぐ、ソファに横になった。
「もうこのまま寝ちゃおうかな」
どっと溜まった眠気が、俺を眠りの世界へと導こうとする。
天井をぼーっと見つめ、願う。
「神様…明日目が覚めたら、隣に女の子がいるようにしてください」
こんなこと願っても、叶うはずないけど。
「もう無理…」
俺はついに眠りについてしまった。
翌日、とんでもないことが起きるとは知らずに―――。
目が覚めたら、隣に女の子。 美戸うり @mitouri177
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