第七話 クロとミックの面談

「よし、次は次男ウサギのクロ君。君の特技と将来の夢を教えてくれたまたえ」

 ハリィは小さなバインダーを手に、真ん中の椅子に座る、ツヤツヤと真っ黒な毛並みが光る次男ウサギ、クロを見た。

「はい、私の特技は引っ掻き、夢はモデルです」

「モデル?」

「モデル?」

 クロの兄兎シロと、弟兎ミックがそろって声を上げた。

 そして口をつぐみ、二匹ふたりはジロジロとクロの体を眺めまわす。

「チッ、父さん譲りの軟弱イケウサ野郎が」

 低い声音で、シロが言った。

「チッ、兄さんもぼくみたいにどっちつかずのブチ模様だったら良かったのに」

 こちらも低い声音で、ミックが言った。

 当のクロはすました表情かおでハリィを見つめている。

「ふぅむ、確かにクロ君の黒い毛並みは上品なイメージで、なおかつとてもツヤツヤしているね。なにか特別なお手入れでもしているのかな?」

「はい、洗い流さないタイプの高級兎毛オイルを使っています」

「なんだと!」

 ハリィの問に答えたクロの言葉に、シロが気色ばんだ。

「お前ばっかり、ずるいじゃないか!」

「なに言ってるんだよ、オイルは自分の給料で買ってるんだ、ずるいもなにもないだろ!」

「そういえば最近私のシャンプーの減りが早いんだ……お前、勝手に使ってるだろう⁉」

「誰が安物の兄さんのシャンプーなんか使うもんか! あんなの使ってたら、毛がパッサパサで傷みまくるわ!」

「なんだと!!」

 始まってしまったシロとクロの兄弟喧嘩を、ハリィはしみじみと眺めていた。

「えーっと、ミック君? 彼らは非常に元気があってよろしいね。いつもこうなのかな?」

「はい。ぼくは巻き込まれるのが面倒なので、近寄りません。ちなみに、一段落ついた後で、喧嘩してた理由を二匹ふたりに聞いてみてください」

 ミックの言う通り、ハリィはシロとクロの一悶着が落ち着くまで待った。

 十分後。

「くそ、今日はこのくらいにしといてやる! 隊長との面談中だしな!」

 いくつもの切り傷からうっすらと血をにじませた、シロが口元を拭った。

「っとに! いっつも邪魔ばっかして!」

 頭に五個のコブをつくったクロが目元を拭った。

「えー、兄弟喧嘩は終わったかね?」

「あ、はい、すみませんでした」

「ところで、喧嘩の原因はなんだったのかね?」

 ハリィはミックの提言通り、二匹に訊いてみた。

「えっ……と……なんだったっけ?」

 シロは首を傾げたまま固まり。

「んー…………と……モデルが夢……です。はい」

 クロは目をパチパチさせながら姿勢を正す。

「……うーむ、実に後腐れがなくて、素晴しい兄弟喧嘩だな!」

「アホくさいですよね? 毎度こんな調子ですよ」

 あくまで前向きにしか捉えないハリィに、ミックは呆れたようにため息を吐いた。

「そうか……ちなみにミック君の特技と夢はなんだね?」

「ぼくの特技は噛みつき、夢は毎日だらだらしてすごすことです……兄さんたちがいない、静かな場所で」

「だらだらだって⁉ なんて覇気のない!」

 シロがミックの回答にいちゃもんをつける。

「お前の毛並みも黒一色だったら良かったのにな……」

 クロは同情するような視線を隣のミックに向けた。

「余計なお世話だよ。兄さんたちを見て育ったら、静かなのが一番だって誰もが思うさ」

「なんだと!」

「ナマイキだぞ!」

「あー……盛り上がりそうなところ水を差してしまうのだがね、シロ君は肉体強化訓練、クロ君はアイドルレッスン、ミック君はセラピスト養成しようと思う」

 再び喧嘩勃発か、というところでハリィが提案したプランに、三匹さんにんはつぶらな瞳をパチクリさせた。

「肉体強化訓練……」

 とシロがうっとりし。

「アイドルレッスン……」

 と、クロがまんざらでもない笑みを浮かべ。

「セラピスト養成? なんで?」

 と、ミックが首を傾げた。

「詳しい内容は、カタイ君から連絡がいくようにする。それでは、これにて解散!」

 ハリィは手にしたバインダーを小脇に抱え、さっさと去っていく。

「……なんで……セラピスト……めんどくさ……やだ……」

 あとに残ったのは、うっとり顔のシロ、ニヤケ顔のクロ、眉間にシワを寄せたミックだけなのであった。

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