Web版限定・番外中編:副団長カインの奮闘編
【17.5話】貴様に決闘を申し入れる
今回は、エリィとギルが二人で旅行に行く前の、「互いの距離が近づいてきているなぁ」というくらいの距離感の時期のお話です!
『副団長カインの奮闘編(3~4話連作)』の、1つ目のストーリー。
(ちなみにカインは、本作中にも4回出てます。空気より薄く書いてあるので、きっと記憶に残っていないはず!)
Q.副団長カインは、どの話で登場したでしょうか?
A.答えはこの話のあとがきで……
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今。ギルベルトは、部下の『裏切り現場』を目撃していた。
「……カイ、ン」
悲しみと失望と怒りと憎しみ。信頼していた副団長カイン=ラドクリフが、まさか自分を裏切るような行為を働くとは思わなかった。
こんな光景は、見間違いだと思いたい。だが、これは紛れもなく現実だ。
カインが顔を真っ赤に染めて、エリィに『愛の告白』をしているではないか!
人目を忍ぶように、騎士団本部の裏口で、カイン=ラドクリフはエリィに大きな花束を差し出していた。緊張しきった様子のカイン……あれは、本気の男の目だ。
あの花束は、赤のガーベラ。この地域では、男が女に愛を告白するときに赤のガーベラを贈るという習わしがある。
「まさか、カインが……エリィに、愛の告白を…………?」
カイン達の様子を離れた木陰から目撃していたギルベルトは、わなわなと拳を震わせた。
この日、ギルベルトは早朝から近隣の森に出て自己鍛錬をしていた。騎士団本部に戻ったタイミングで、偶然にもこの場を目撃してしまったのだ。距離が遠くて、カインが何をしゃべっているのか聞こえない。だが、愛の告白であるのは間違いない……真剣な目でエリィを見つめ、カインは何かを訴え続けていた。
一方のエリィは、戸惑った様子でカインに何か返事をしている。差し出された花束を一生懸命押し返そうとしていたが、カインはそれでも花束を引っ込めようとしなかった。絶対にエリィに渡そうというカインの気迫が、離れた場所からでも伝わってくる。
(……まさか、あのカインが……!)
ラドクリフ男爵家の三男であるカインは、ギルベルトより一つ年下の21歳。有能で責任感が強く、信頼できる部下だと思っていた。騎士団に入団したばかりのころのカインは優柔不断さが目立っていたが、彼の才能と勤勉実直な人柄を評価したギルベルトは、彼を真摯に育て続けてきたのだった。
(カインは、浮ついた行動を一切とらない男だ。つまり……あの告白は、命をかけた本気の告白と言うことか!)
団長であるギルベルトを差し置いてエリィに告白をするのだから、カインが命がけの覚悟をしているのは容易に想像できる。騎士団で働く全員にとって、ギルベルトがエリィを溺愛しているのは『公然の秘密』だからだ。……エリィ自身が、ギルベルトの好意にどの程度気づけているかは不明だが。
(……しかしカイン、貴様を見損なったぞ! 正々堂々と俺に立ち向かうのならばともかく、人目を避けて抜け駆けでエリィに告白をするとは。騎士の風上にも置けない、卑劣な行為だ)
次の瞬間、ギルベルトは自身の目を疑った。エリィが少し戸惑いながらも、カインの花束を受け取ったからだ。慈しむような優しい眼差しで花束を見つめ、大切そうに抱えている。
ギルベルトの胸を絶望が貫きかけた……が、すぐに考えを改めて平常心を取り戻した。
――いや、エリィはもしかすると、赤いガーベラの意味を知らないのかもしれない。ただの善意として、カインの花束を受け取ってしまったに違いない。
木陰で事の成り行きをコソコソと盗み見ている自分の挙動は、騎士団長としてふさわしくない。そう気づいたギルベルトは、身を隠すのをやめて、堂々たる挙措でカインに近付いていった。
「ひっ……! だ、団長!?」
怒気を吹き上げて歩み寄ってくるギルベルトに気づき、カインは声を引き吊らせた。
「カイン=ラドクリフ。貴様に決闘を申し入れる」
「け、決闘!? 私が団長と……?」
「ギルベルト様!? どうなさったんですか!?」
ただならぬ状況に、エリィもおびえたような声をあげた。
「決闘って……どういうことです?」
「エリィ。悪いが、その花束はひとまず俺に預らせてほしい」
「カインさんの花束を、ギルベルト様が? なぜですか?」
きょとん、とした顔で尋ねられ、ギルベルトは非常に気まずい気分になった。
「……君は、男が赤いガーベラを贈る意味を理解しているのか? 分かった上で受け入れるというのなら、俺が口出しする権利はないが。もし意味を知らないのなら、気安く受け取るような花ではない」
「どんな意味なんです?」
エリィ達の会話を聞いて、カインが慌てふためいている。
「だ、団長、待ってください誤解です、あ、あの……それは……」
ギルベルトは、そんなカインを軽蔑するように睨みつけながら言った。
「愛の告白だ」
「告白!?」
エリィの頬がリンゴのように真っ赤に染まる。
「……知りませんでした!」
「ならば話は早い。その花束は俺が預か……」
「ダメです! ギルベルト様にお渡しするわけにはいきません!」
ギルベルトは戸惑った。エリィが、カインの花束を大切そうに胸に抱いているからだ。
「愛の告白! そんなすてきなお花だったなんて……」
目を輝かせて頬を染めているエリィはとても可憐で。そしてギルベルトを動揺させた。
「レナウ団長、誤解です!! 私はエリィさんに、
「ほう、
決闘を始めよう――とギルベルトが言いかけたそのとき。
「ち、違いますよギルベルト様!? この花束は、私がいただいた物じゃありません!」
エリィが慌てた様子で割り込んできた。
「私はただ、預かっているだけです。カインさん、ギルベルト様に教えても良いですよね?」
「……うぅ。結構です」
うなだれて答えるカインを見つめてから、エリィは説明を始めた。
「このお花は、アンナさんに渡すために、私がお預かりしているだけです」
「アンナ?」
ギルベルトには、耳慣れない名前だった。
「近くの村に住んでいる農婦さんですよ。アンナさんは毎日、騎士団に農作物を届けてくれるんです。アンナさんの届けてくれた農作物を受け取って厨房に運ぶ込むお仕事は、私が担当しています。だから、カインさんが私を介して、アンナさんに渡して欲しいと。そうですよね? カインさん」
「………………は、はい」
蚊の鳴くような情けない声で、カインは呟いていた。
男爵家の血筋であるカインが、農婦の女性に恋心を? いささか身分不相応ではあるものの、ギルベルトが不快感を持ったのは身分のことではなかった。
「女々しいぞ貴様! 愛の花を、他人を介して渡すとは何事だ! 告げたいことがあるなら、その女に直接告げろ。お前はそれでも、ザクセンフォード辺境騎士団の副団長か!」
「そうですよ、カインさん! ただのお花ならまだしも、そんな大切な意味のある花束だったなんて……。カインさんが直接、アンナさんに渡さなきゃダメだと思います!」
「一度拒まれてしまったのですよ……」
エリィに丁寧に花束を差し戻され、カインはしょんぼりと肩を落とした。
「貴様の事情など知るか! ……まったく、紛らわしいマネを」
カインにはカインの事情があるのだろうが、それにしてもエリィに仲介を頼むなど、筋違いにも程がある。
憤慨しているギルベルトを見て、エリィは不安そうに尋ねてきた。
「ところでギルベルト様、決闘を本当になさるんですか? 確かに花束はカインさん自身が渡すべきだと、私も思いますが……でも、決闘をするほど怒らなくても……」
「……いや。もう、いい。決闘の必要はなくなった」
「必要がなくなったんですか?」
どうして必要がなくなったんですか? と尋ねてきそうなエリィを見て、ギルベルトは居心地が悪くなった。
「……職務中に私物の受け渡しは良くない。……規律が乱れるからな。だから阻止した」
「なるほど。だから怒っていらっしゃったんですね! 規律を知らず、すみませんでした」
「……いや。俺も大人げなく怒りすぎた」
気まずい。非常に気まずい。こんなに気まずいのは、ひょっとすると生まれて初めてかもしれない……。
「では、俺も職務に戻る。……ところでカイン、渡すべきものは自分で渡せ。アンナとやらが来る時間帯に、時間休暇を取ればいいだろう? 事前に申請するならば、認める」
居心地の悪さを誤魔化しきれず、ギルベルトはそれだけ言い残すと本部舎屋へと引っ込んでいった。
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Q.副団長カインは、本編中のどの話で登場したでしょうか?
A.
【14】エリィがバケツの水をひっくり返したときタオルを渡してた。
【20】第一部隊の隊長として、魔獣討伐に駆けつけた。
【25】飲み会のときにさりげなく一言!
【38】ギルが騎士団から抜けるにあたり、団長に出世した!!
以上、4回でした。全部当てた人がいたら、おしえてください。あなたの読みたいストーリーで、オーダーメイドのショートショートを1本お贈りします!私、ショートショート作家してますので!(でもたぶんいないですよね?)
実はこれ以外にも、隠れて最大の活躍をしているシーンが裏で進行しており、カイン君がいなかったらエリィは死んでます。番外編でそのあたりも書きますので、よかったら引き続きチェックお願いします。農婦のアンナとの絡みも書きたいですね!
どうぞ引き続きよろしくお願いいたします!
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