【13*】エリーゼが陰で支えてた?《妹視点》
大司教からとんでもない告白を聞いてしまい、私は呆然としていた。
「先代の大聖女さまがお亡くなりになった後、代わりに神託を下していたのは、実は私ではありませんでした……。『優れたお方』の手柄を横取りする形で、私が名乗っていただけです。今まで密かに神託を代わりに下し、この国を影で支えてきたのはエリーゼ・クローヴィア様でした」
死んだエリーゼが、今までこっそり神託を下していたっていうの?
「でも……エリーゼはあくまで大聖女の『内定者』に過ぎなかったでしょ!? 聖痕は持っていたけど、まだ大聖女には就任してなかった。なのに……どうして神託なんて下せたの?」
「エリーゼさまの努力と経験によるものでございます。……本来は、就任前の『内定者』には、正確な布陣など不可能です。しかし、エリーゼ様は幼少時より先代の大聖女さまのもとで修業を積み、足らない力を経験で補っていたようです」
「そんな……」
心が折れかけたけど、すぐに重要なことに気づいた。
「でも、たかが内定者のエリーゼにできたんなら、本物の大聖女のわたしも、当然できるわよね!?」
「もちろんです。……というよりも、大聖女さまが神託を下すのが本来の形ですので、ぜひララさまに励んでいただきたい」
「分かったわ、やるわよ! で、どうすればいいわけ?」
「まずは魔力素を感じ取り、瘴気や魔獣の湧きそうな場所を予測してください。危険な場所ほど手厚い人員配置となるように、聖女・聖騎士の布陣をお決めいただきます」
は……? さっそく意味不明だ。
「魔力素ってなによ。わたし、何も感じ取れないけど」
「おそらく、聖痕を宿すだけでは見えないのではないでしょうか? 本来ならば、大聖女『内定者』となった時点で幼少時から鍛錬を始めるものですから。エリーゼ様は、ほぼ完璧に魔力素を感知しておられるご様子でした。常に謙虚で実力も高く、大変すばらしいお方でした……」
大司教がエリーゼを褒めたたえた瞬間、わたしの頭に血がのぼった。
「あの女より、わたしのほうが劣ってるって言いたいの!?」
頭に血がのぼり、わたしは大司教を突き飛ばした。「ぐぁ」と苦鳴を漏らして床に転がった大司教を見下ろして、わたしは断罪するように呟いた。
「身の程をわきまえなさい、大司教。あんたみたいな役立たずのジジィは、クビにしてもいいのよ!? ……答えなさい、エリーゼとわたし、どっちが優れてる?」
「ラ、ララ様で、ございます……」
わたしはフン、と鼻を鳴らした。
「分かればいいのよ。……それならさっさと、エリーゼにやったのと同じ修行をわたしにしなさい? 大聖女の神託ってやつを、わたしもやってあげるわ」
エリーゼに出来たことが、わたしに出来ないわけがないんだから。
「エリーゼ様と、同等の修行を……ですか? 承知しました……」
大司教は、わたしを地下の宝物庫に導いた。宝物庫にあったのは、宝の山なんかではなく……書物、書物、書物。四方の壁にびっしり並んだ膨大な書物に、わたしは圧倒されていた。
「エリーゼ様は、11年の歳月をかけてこれらの知識をすべてご自身のものとなさっておりました。加えて、毎日5時間の精神鍛錬を大聖堂にて続けておられましたが。……まずは精神鍛錬からお始めになりますか?」
「……ばっ、バカ臭い……! ふざけないでよ、要領悪すぎ……」
わたしは精一杯の虚勢を張って、大司教を睨みつけた。
「わたしは、もう王太子妃なんだから。暇を持て余してたエリーゼとは、状況が違うの!」
「……と、仰いますと?」
「要点を教えなさい、ってことよ! 重要なところから、かいつまんで教えなさい! あたしにだって、大聖女の仕事くらいできるんだから!!」
大司教の老いた顔が、絶望しきったように歪んだ。
――バカにしないでよ。
エリーゼに出来たことが、わたしに出来ないわけがないでしょ? 独りぼっちのエリーゼと違って、わたしは他人の力をうまく利用してやるんだから……
「絶対、絶対にわたしのほうが上手くやってみせるんだから!」
聖痕の宿る左の胸が、どくりどくりと不安な拍動を続けていた。
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