病院にて
それからはわたしはパパと一緒に救急車に運ばれ、近くの総合病院へ連れて行かれた。パパはすぐに手術室へ行き、わたしは別の部屋で手当てを受けた。その時にお巡りさんが来て、事故のことを聞かれたので覚えている範囲で答えたつもりだ。……パパの事が心配で何と答えたかも覚えていない。
「君が只野愛子さんかな?」
パパが手術室へ連れて行かれて数時間後、白衣を着た初老の男が現れた。
「うん、そうだよ。あなたは?」
「私はこの病院の院長だよ。パパに会えるから、着いてきてくれるかな」
手術が終わったとは言わないなら、パパは……。
嫌な考えが頭をよぎるが、それでも頷いて院長の後をついて行く。院長は一つの個人部屋に案内すると、ノックをする。
「はい、どうぞ」
「……え?」
扉越しに聞こえた声にわたしは耳を疑った。驚くわたしをよそに院長は扉開ける。
「調子はどうですか、只野さん」
「まだ義体の一部が痛みますね」
院長と共に部屋に入ると、体を起こして返事をするパパの姿がいた。
「パパ?」
「あ、愛子。手当てをしてもらったんだね。痛いところはないかい?」
「パパ、手術は成功したの? あれ、でもあんな大怪我したのに元気そうなの?」
「ああ。僕じゃなくて、義体が壊れちゃってね。院長にお願いして別の義体に替えてもらったんだ」
「私どもの不手際で全てのパーツを交換出来ず、申し訳ありません‼︎」
院長はその場で土下座してパパに謝罪する。
「仕方ありませんよ、入手困難な部位が壊れてしまったから。連絡したところ1週間くらいでこの星に届くみたいです」
「本当に申し訳ありませんでした」
「顔を上げてください。あなたは僕を治してくれたんです。そんなに恐縮しないでください」
パパの言葉に院長は恐る恐る顔を上げると、パパは人当たりの良い笑顔を向ける。
「パパ、院長はパパの正体を知っているの?」
「うん。ある一部の権力者方に僕のことを伝えているよ。万が一の時に対処出来るようにね」
明るく告げるパパの言葉に少し寒気を感じたが、知らない振りをする。
「じゃあ、義体が傷付いただけで、パパ自身には怪我はないんだね?」
「ああ。パパ自身はなんともないよ。言ったでしょう、僕は大丈夫だからって」
そうは言っても何も知らなかったのだから、あれは誤解する言い方だ。パパに何もないならよかった……。
「あと、僕にとってはラッキーな状態なんだよね」
「ラッキー?」
「ここにいれば人間にお世話してもらえるんだろう? それも色んな人に。そう考えると僕にはご褒美だよ」
ウキウキとしたパパの姿に院長は唖然とし、わたしは大きな溜め息をついた。
わたしの心配を知らずにこの状況を喜ぶなんて、本当にパパは大の人間好きだ。
終わり
愛人家 考作慎吾 @kou39405
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