買い物


「さて愛子、次は何を買おうか?」

「……もう充分だと思うよ」


 わたしに必要な物がないかと聞くパパの両手には、沢山の紙袋がぶら下がっていた。紙袋の中身は全てわたしが使う物しか入っていない。流石に家具は運べないので、家に配達するように手配していたが、これは買い過ぎでしょ。

 まさかわたしが欲しいと言った物をパパは値札を見ずに即買いするとは思わなかった。

 可愛いとうっかり呟いた高い洋服も、思わず魅入ってしまった可愛らしいベッドや勉強机も。わたしが気に入ったと知ると全部買ってしまった。

 欲しいと駄々をこねる子供を嗜める親子連れの前で、わたしの欲しい物を大量に買うパパを見た時は罪悪感を覚えるくらいだ。


「じゃあ荷物を車に乗せようか」

「うん」


 パパと一緒に駐車場に行き、荷物を次々と詰め込んでいく。量が多いからわたしも荷物を入れていたが、そのうちの一つがこぼれ落ちて転がってしまった。

 わたしは慌てて転がる荷物を拾いに追いかけて行く。荷物に追いついてわたしが手を伸ばして取ろうとした時だった。

 

「愛子‼︎」


 パパの叫び声とトラックのクラクション音が重なる。いつの間にか駐車場から車道に出ていたらしい。逃げようにも体が強張って動けない。恐くて思わず目をつぶると、何かに衝突した。その後にトラックの急ブレーキと衝突音も聞こえた。体が宙を浮いた後、道路に体がぶつかる。全身に痛みを感じるけど、思った程の痛みじゃない。不思議に思って目を開けると、わたしの体はトラックにぶつかったにもかかわらず、擦り傷だけで済んでいる。

 訳が分からずわたしが視線を道路に向けると、何かを轢いて電柱にぶつかったトラックの側でパパが倒れていた。体の一部は変な向きを向いていて、血が大量に出ている。


「パ、パパ?」


 なんでパパが轢かれているの? わたしがあの場所に居たはずなのに……。確かに何かと衝突したと思ったらけど、あれはパパがわたしを助ける為に反対側へ突き飛ばした感触だったの?


「パパ、パパ!」


 わたしはすぐにパパの側に駆け寄る。パパはわたしの声を聞くと、薄く目を開けてわたしを見つけると安堵した表情を浮かべた。


「良かった、無事だったんだね」

「良かったじゃないよ! パパ死にそうなんだよ⁉︎」

「大丈夫だよ、すぐに治るから」


 そう言っている口からごぽりと血を吐いている。


「嘘じゃん。見えない何かでわたしを突き飛ばせばよかったでしょ。どうしてパパ自身が助けるのよ……」


 わたしの声は徐々に小さく震えて、視界も何故かボヤけて見える。


「考えるより先に体が動いちゃったな。僕は大丈夫だから、泣かないで。僕の愛しい、子……」


 そう言うとパパは目をつぶり、何も言わなくなった。


「……パパ? お願い、目を覚まして」


 わたしはパパの体を揺さぶるが、揺さぶる手にパパの血がべったりと付く。

 わたしはわたしたちを囲む野次馬の1人の服を掴む。


「わ、何するんだ!」

「お願い、早く救急車を呼んで! そうじゃないとパパが死んじゃう‼︎」


 わたしに捕まった人は迷惑そうな顔をしていたが、なりふり構っていられない。


「お願い、誰かパパを助けて‼︎」


 わたしは救急車が到着するまで、必死にその言葉だけを叫び続けた。

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