人間好き
パパの運転で大型デパートに着いたが、休日もあり家族連れや友達や恋人と遊びに来たのかとにかく人が多かった。
これだけ人が多ければ迷子になるかもしれない。そんな事を考えながらパパの方を見ると、わたしはギョッと目を見開いた。
パパは恍惚とした表情で群衆を見ていたのだ。まるで欲しいものが目の前に並んでいて目移りする子供のようだ。
「ぱ、パパ?」
「ああ、やっぱり素晴らしい! どこを見ても人、人、人! 老若男女、様々な姿の方々がいる。地球に移住して良かった」
ほぅ、と息を吐くパパにわたしは恐る恐る尋ねる。
「パパって、本当に人間が好きなの?」
「ああ、もちろんだよ」
「例えばあのお婆ちゃんは?」
わたしの問いに即答するパパに遠くにいるお婆ちゃんを指差した。
「老いによる白髪と皺が素晴らしい。杖をついて歩いているから、僕がエスコートしてあげたい」
「じゃあ、あそこのおじさんは?」
今度は少し離れた場所にいる、お腹が出ていて髪が少し薄いおじさんを指差す。
「ふくよかなお腹がチャーミングだね。あの髪型も良いけど、彼に似合うように整えたいな」
全てわたしを可愛いと言っていたテンションで話すパパに引いてしまう。
「パパは人間なら誰でも良いんだね」
「うん、人間ならどんな姿でも好きだよ。でも、一番可愛いのは愛子だね」
急にわたしの頭に手を伸ばすパパに、不意に両親がわたしを叩こうとする姿が見えてしまい、体を震わせて一歩後ずさる。
自分の態度に気まずさを感じてわたしはすぐに謝罪する。
「ご、ごめんなさい、パパ」
「ううん、今のは僕が悪かったよ」
パパはその場で跪いてわたしと視線を合わせる。右手をゆっくり差し出して、わたしに向かって微笑んだ。
「パパが他の人に目移りして迷子にならないように、手を繋いで見張って欲しいんだ。……いいかな?」
「……分かった」
今度は両親の姿は出てこなかったので、素直にパパの手を握った。
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