わたしは空腹で目を覚ました。体を起こすと手足やお腹に痛みがはしり、思わず呻く。黄ばんだシャツから見えるガリガリに痩せ細った手足にはいくつもの青痣が出来ていた。周囲を見ると散乱した衣服とゴミがあるボロアパートだった。そうだ、ここはわたしの家だ。両親と暮らしていたあの家。今までのは全て夢だったのかな?

 宇宙人がパパになるなんて夢に決まっている。でも、もう少しあの場所に居たかった。


「パパ…」


 夢だと知りつつもわたしは小さく呟くと目から涙が出て来た。たった数時間の出来事を恋しく思うなんておかしな話だ。

 コンコン、と扉をノックする音が聞こえた。何だろうと思い顔を上げると扉がゆっくりと開いて一人の男性が入って来た。逆光で見えないが、背は高く細身だがしっかりした体付きをしている。小太りの両親とは違う人物にわたしは体を縮める。

 その人物はわたしめがけて歩み寄り、視線を合わせるようにしゃがんで綺麗な顔立ちで声を掛けた。


「愛子、大丈夫かい?」


 ハッとその声に反応すると、パパが優しく頭を撫でていた。辺りを見ると綺麗な部屋にふかふかの布団、孤児院で使っていたパジャマを着ていた。


「パパ…?」

「うなされていたから起こしたんだ。恐い夢でも見たの?」

「うん。前の家の夢を見たの」

「…そうか。もうそんな事は起こらないから、ゆっくりおやすみ」

「うん、おやすみなさい」


 パパが毛布をかけ直し、あやすように手を置く。そのリズムに再び眠気に襲われたわたしは深い眠りに落ちていった。

 次に目が覚めたのは朝日が差し込み鳥が囀る時間だった。

 わたしが布団から抜け出してリビングに行くと、パパが朝食をテーブルに置いているところだった。


「おはよう、愛子。あれから恐い夢は見てないかい?」

「おはよう。ううん、見てないよ」

「それなら良かった。朝ご飯が出来たから食べようか」

「うん」


 わたしが椅子に座るとパパはテレビに電源を入れる。テレビからはニュースが流れていた。


「──本日未明、身元不明の二人の男女が〇〇山の麓で発見されました。奇声を上げて暴れていた所を近所の人に取り押さえられ、近くの病院に搬送されております。二人の特徴は小太りの白髪、年齢は60〜70代と見られており、警察では身元の確認を急いでいます」


「人を捨てるなんて可哀想に、愛子はそんな人間になってはダメだよ?」

「うん」

「ところで今日は近くの大型デパートに行くけど、愛子は他に行きたい所はあるかい?」

「うーん、特にないかな」

「分かった。ご飯を食べて着替えたらすぐに行こうか」

「うん」


 わたしはこの時すっかり忘れていた。パパが大の人間好きなことを。

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