就寝

 温かいお風呂に入り、持っていたパジャマに着替えたわたしはリビングにいたパパに声を掛けた。


「パパ、お風呂から上がったよ」

「あ、うん。愛子はこれからどうする?」

「疲れたから寝たい」

「分かった。2階のパパの部屋の隣が空いているから、案内するよ」


 パパが案内してくれた部屋は家具は何も置かれていなかった。

 ペットだから床に寝ればいいのか。わたしが床に寝転がると、パパが驚いた声を上げた。


「愛子、何をしてるんだ⁉︎」

「疲れたから眠るんだけど?」

「床だけで寝たら身体を痛めるよ、お客用の布団を持ってくるから待ってて」


 パパはそう言って一旦部屋を出ると、すぐに布団一式を持って戻ってきた。掛け布団と枕が宙に浮いた状態だから、本体も使って運んでいるのだろう。

 さっと布団を敷いてくれたので、わたしは布団の中に潜り込んだ。


「ありがとう。てっきりペットだから何もないのだと思った」

「え、違うよ! 愛子の好みがあると思ったから、何もないだけだよ。自分の趣味じゃない物を用意されても嫌だろう」


 ペットだから用意してなかったのではなく、ペットの好みに合わせたくて用意してなかったんだ。

 ……両親はわたしのことはどうでも良かったから。


「明日は愛子の好きな物を買いに行こう。そしてこの部屋を愛子好みの部屋にするんだ」

「わたし、好みに?」

「うん。楽しみだなー、愛子がこの部屋をどんな風に飾ってくれるのか」

「……わたしを孤児院に返さないの?」

「え、なんで?」

「だってわたしの体、傷だらけだから……」

「それは愛子が生きようと耐えた傷でしょう? 愛子が望むなら、僕の星の治療薬で綺麗にすることが出来るよ」


 てっきり孤児院に戻されると思っていたのに、わたしを気遣ってくれる。治らないと思っていた傷も治してもらえる?


「……この傷、治るの?」

「治るよ。治療薬が届くのに時間は掛かるけど、届いたらすぐ治すからね。だから、愛子を手放すなんてことはしないよ」


 そう言ってくれたパパにわたしは思わず抱き着いて、大きな声で泣いた。

 こんなに大きな声で泣いたのは久しぶりだ。そんな事をしたら両親に殴られるからだ。パパはそんなわたしの背中を優しく撫でてあやしてくれた。その温かさが心地よくて、わたしはいつの間にか目を閉じて眠ってしまった。

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