お風呂

 パパが食器を洗っていると湯沸かし器から軽やかなメロディが流れ出した。


『お風呂が沸きました』

「愛子、先にお風呂に入っておいで」

「うん」


 わたしはリビングから脱衣場まで移動し、上着を脱いだ。下着から見える肌には痣や火傷痕がいくつも残っている。痣は色が薄くなっているが、ヒステリックな母が付けた煙草の痕は残り続けるだろう。わたしが体中の痕をぼーっと眺めていると、突然脱衣場の扉が開いた。


「ごめん、着替えを置くのを忘れていたよ。愛子の荷物を持って来たから、この中から選んで着替えてくれるかな?」


 パパがわたしが持って来たバッグ片手に入って来る。わたしは咄嗟に前を隠して下着姿を見られないようにする。


「み、見ないで!!」


 いくら宇宙人とはいえ、血の繋がりのない男に見られていい格好じゃない。羞恥で顔を赤くするわたしに、パパは何故かじいっとこちらを見つめ、側まで近付く。パパの行動が理解出来ずに後退り、壁まで追い込まれるとパパの腕がわたしに伸びる。


「っ、嫌!!」

「……こんな傷痕を隠してたの?」


 片手で服を持ったまま、もう片手でパパを払いのけようとすると、パパはその片手を掴んでポツリと呟く。


「え?」

「ごめんね、見られたくなかったよね。着替えはここに置いておくから、お風呂にゆっくり入っておいで」


 パパはすぐにわたしの手を離してバッグを側に置いてから、サッと脱衣所から出て行く。

 ただ出て行く瞬間、まるで自分が傷付いたように悲痛な顔をするパパがいた。

 パパからみたらこんな傷だらけのペットはいらないのかもしれない。……明日には孤児院に戻されるのかな?

 そんな事を考えながら、わたしはお風呂の準備を始めた。

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