食事
くぅ〜とわたしのお腹が小さく鳴いた。それに気付いたパパは窓と時計に目を向ける。外は薄暗く、時計は18時過ぎを指している。
「ああ。もうこんな時間か、お腹すいたね。愛子は何が食べたい?」
「なんでもいいの?」
「うん! 好きな物を言ってごらん」
笑顔で尋ねるパパにわたしはおずおずと答える。
「それなら、食パン……」
「ん?」
首を傾げるパパにしまった、と思い訂正する。
「ごめんなさい、やっぱり食パンの耳がいい…」
「んん⁉︎」
さらに驚くパパにやっぱり贅沢だったかと思い、小さな声でお願いする。
「だ、だめかな。それなら残飯を……」
「よし、今から美味しいもの沢山作るから好きになったものを言ってね!」
パパはわたしの言葉を遮ってわたしを抱きかかえたままキッチンへ移動する。スーツの上着を脱いでキッチンに置いていた白いフリルの付いたエプロンを身につけ、カッターシャツの袖をまくる。
それからパパは鮮やかな手付きで料理を作っていく。宇宙人が料理を作れるのか疑問だったが、出来上がったものはワンプレートに乗った美味しそうなお子様ランチだった。オムライスにハンバーグ、ハート型のニンジンのグラッセにナポリタン、ポテトサラダにコーンスープが添えられている。
出来立てで湯気が立ち、そこから食欲のそそる匂いがしてわたしのお腹は再び鳴り出す。
「はい。少しずつ食べて苦手な物があったら教えてね。あと無理に全部食べる必要もないから」
パパはわたしと自分の分の料理をリビングの机の上に置いて席に着く。わたしも同じように椅子に座ってから手を合わせる。
「いただきます」
そう言って備え付けてあるスプーンに手を取り、オムライスを一口すくう。トロトロの卵から鮮やかにケチャップで染まったチキンライスが顔を覗かせる。ゆっくり口に入れて咀嚼するとわたしは目を見開いた。卵の甘みとチキンライスの酸味が絶妙に合い、今まで食べ来た物の中で一番美味しいのだ。わたしは他の料理も少しずつ食べて味をみるが、どれも美味しく感じる。
「味のほうはどうかな?」
「すっごく、美味しい‼︎」
元気よく答えて喜ぶわたしにパパは安心したような顔をしている。そして自分のプレートに乗った料理を口に運ぶ。
「どれどれ、うん。今日も美味く出来てるね」
「宇宙人も味覚があるの?」
「一応ね。僕は栄養があればなんでもいいけど、愛子の好きな味を覚える為に必要でしょう?」
「そ、そうかな」
わたしの為、と言う言葉を少し恥ずかしく思い、口ごもりながら食べていく。
お腹が空いて、さらに美味しい料理のおかげでわたしはあっという間に平らげてひと息つく。
「ごちそうさまでした」
「ふふっ。全部食べてくれて、ありがとう」
両手を合わせて呟くと綺麗になったプレートを見て、パパがお礼を言う。
「どれも美味しかったから」
「そう。これから毎日、愛子の為に美味しい料理を作るね」
わたしの頭を撫でながらパパは幸せそうに微笑んだ。
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