第9話 これから
「急に会いたいだなんて……どうしたのレンくん?」
「ごめん、もうレイちゃんとは会えない」
「えっと……どういうこと?」
「本当にごめんなさい。別れてください」
「……そっか」
レイちゃんは少し戸惑ったような表情でつぶやいた。
静寂が包んだ。
ぽつりぽつりと雨音がし始めた。
一体どれくらいの時間が経ったのかわからない。
気がついた時には、すでにレイちゃんの姿はなくなっていた。
すでに地面には水たまりができていた。
ポツポツと水たまりに落ちる雫が泡のように消えた。
雨が身体に当たるたびにちくりちくりとする。
別に大した雨でもないのに、なぜか全身が痛い。
いや……痛いのは、俺自身だろう。
はあ……何やっているんだろうか。
とっとと帰ろう。
パチパチ公園を出ようとしたところで、前から傘をさした人影がひょっと現れた。
キョトンとした表情でシズクが傘の下に俺を入れた。
「お兄ちゃん……風邪ひいちゃうよ?」
「シズク……これで良かったか?」
「『良かったか』って……何のこと?」
「……いや、いいんだ」
「ふふ、変なの。それよりもこの紙袋持ってくれる?」
「ああ」
俺はシズクが抱えていた紙袋を受け取った。
どうやらそれなりに重いものが入っているようだ。
あれ……金色のウィッグ?
灰色の大きな瞳が俺のことをじっと見ていた。
「——っ!?」
「ねえ、お兄ちゃん?」
「なんだよ」
「そろそろ私たちの関係、お母さんに教えよ?」
「……」
「だって私たち——将来を誓い合った恋人同士でしょ」
シズクの透き通る声が傘の下で響いた。
▲〇▲〇▲
「ねえ、レンくん……起きて、朝だよ?」
「ん……」
「ふふ、寝癖かわいい」
「——っ!?」
いつの間にかシズクの灰色の瞳が俺を覗き込んでいた。
やはり……この関係性には慣れない。
母さん——マイコさんに俺はシズクと付き合うことになったことを伝えた。
すると母さんは意外にもあっさりと許可をしてくれた。
『シズクはずっとレンくんのこと「好き」って言っていたから、遠からずこうなるかなっておもっていたのよね』
『いいの?世間体とか、倫理的な問題とか——』
『そもそも、あなたたち血が繋がっていないんだから、別に問題ないでしょ?』
『いや、でも親父との約束で——』
『それって、家族としてシズクのことを気にかけてくれってことでしょ?だったら、兄妹という関係性にこだわる必要あるかしら?別に夫婦でも良くないかしら……まあ、いずれにしも周りに何か言われる覚悟はあるんでしょ?』
『ああ……』
そんなこんなで俺はシズクと正式?に付き合うことになった。
と言っても俺たちの関係が特別変わったわけではない。
今まで通りだ。
相変わらずシズクは何を考えているのかわからない。
ふわふわとしてつかみどころがないというか……。
いや、一つだけ変わったことがある。
それは——シズクが俺のことを名前で呼ぶことになったことだ。
「レンくん……どうしたの」
「いや、ぼーっとしていただけ」
俺はゴソゴソとベッドから起き上がる。
シズクは少しおかしそうに笑った。
いや名前の呼び方だけじゃない。
以前よりも俺の前でも明るくなった。
「ふふ、変なの」
「あーそろそろ入学式じゃないのか?」
「そうだね。だから、レンくんも早く着替えて」
「え?俺も行くの?」
「うん、だって私たち——付き合っているんだよ?」
「……」
「それにお母さんも言っていたでしょ。『仕事で行けないから代わりによろしく』って」
「そうだったな……わかったよ」
「ふふ」
意味深に微笑んでシズクは俺から離れたかと思ったが、すぐに振り返った。
ふわっとミディアムボブの黒い髪が舞った。
灰色の瞳が細められた。
桜色の小さな唇がわずかに動いた。
透き通るような声が部屋に響いた。
「そういえば、まだ伝えていなかったことがあるんだった」
「……なんだよ?」
「もしも今度約束を破ったら——絶対に許さないからね?」
(終)
流行りのAIマッチングアプリを試したら、義妹にめちゃくちゃ似ている女の子とマッチングして付き合うことになった結果、義妹にばれて修羅場になった 渡月鏡花 @togetsu_kyouka
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