3. 剣と魔法

 誕生日の次の日。

 早めに寝たからか、早く起きれた。僕は意識が覚醒すると同時にベットから飛び起きた。


 確認しないといけないことがある。

 昨日、誕生日プレゼントで母様から頂いた、このオルゴール。

 僕にはこのオルゴールから流れる音楽は聞こえない。だからいつ音楽が鳴っているのかなんて


 なのに昨日僕は、音楽が本当に鳴っていることに

 その理由は…


「…やっぱり」


 このオルゴールで音楽が流れている間、オルゴールの周りに魔力の粒子がんだ。

 でもなんで…?今までこんな現象見たことないし、もし音に反応しているなら声を出したら口元に寄って…行く…はず……。


 …まて。


 僕は今まで魔法の詠唱は体内の魔力のみを使うと思っていた。

 けどもし、詠唱によって空気中の魔力を引き寄せているんだとしたら…?

 でもそれだと話しているときにも魔力が寄って来ないと説明できない。


 詠唱に魔力を引き寄せる特別な効果がある?

 それだと音楽に魔力が寄っている意味が分からない。


 ………本当に話し声には寄っていないのか?


 確認しないといけない。

 僕は部屋を出て1階のキッチンに行った。


「カレンさん。おはようございます」

『あらイラ様。おはようございます。こんな朝早くどうかしましたか?』


 昨日の片づけをやっているカレンさんに協力してもらうことにした。


「少しの間、あーーっと言っていてもらえますか?できれば小声からだんだん大声になっていく感じで」

『わ、わかりました』


 カレンさんが戸惑いながらも『いきます』と言い、声を出してくれた。


 ―――――――――――――――――――――――――


 カレンさんに協力してもらった直後、父様が起きてきた。


『早起きしたんだ、今日は予定になかったが外に行こうか』


 剣術の誘いだ。

 本当はさっき確認したことも踏まえて考えたいけど、父様から誘っていただくことなんて初めてだし、1人で教えていただくこともなかなかない。


「…よろこんで」


 同意を確認し、父様は庭の方に向かった。

 僕は魔法と同じぐらい剣術が好きだ。素人の僕から見てもわかるぐらい父様は一流の剣士だ。そんな人に教えていただくんだ楽しいに決まっている。

 僕も庭に出て、父様の対面に立った。


『せっかくサシでやるんだ。1試合だけやってみるか?』


 …試合か。

 ルールはシンプルで制限時間内に相手に木刀を当てるか寸止めのどちらかをすれば勝ち。

 姉様と兄様とはやったことがある。負けてはいないし勝ってもいない。時間切れの引き分けで毎回終わっているのが実力だ。僕と姉様たちの実力が同じというわけではなく、手加減してもらっているからこそ引き分けで済んでいる。


「朝食に間に合わないと母様に怒られてしまいますけど、それまで時間制限なしでもいいですか?」


 朝食までまだ時間がある。

 今日は順番を待っている人はいないんだ。引き分けなんて生ぬるい結果で終わりたくない。


『いいな。全力で来なさい』


 父様は僕の方に木刀を投げ、構えた。

 …僕のこの試合の目標は父様に手加減をさせないことだ。本気なんて到底勝てるわけがない。

 投げられた木刀を取り、父様と違う構えをとった。


 剣術には神の名を持つ流派がある。父様の流派は【牙神流】と言われるもので、相手の攻撃をあえて刀で受け、カウンターを狙う流派だ。僕は力も体重もないから【牙神流】では戦えない。

 だから、剣術の本を漁った。【瑠神流】。相手からの攻撃は受け流し、攻めを徹底して手数で相手を押す流派だ。


 父様から教えていただいた基本の剣と僕の知識でせめて、あがいて見せる。


「いきます!!」


 イラはコージスの方に勢いよく突っ込み、軽くジャンプと走った勢いを乗せコージスに打ち下ろした。コージスはイラの剣を自分の剣で受けた。イラが2撃目を放つよりも早くコージスの蹴りがイラの脇腹を入り、イラは軽く飛んだ


 …これで確信できた。カレンさんの協力と父様の剣と打ち当った瞬間を見て、合点がいった。

 僕が見えている魔力の粒子は人の声に寄っていた。声が大きい程、魔力の粒子は多く寄っていた。結果から僕はてっきりというものが魔力を寄せているんだと思った。それなら音楽に魔力が寄っている理由もわかる。


 ではなぜ、今までそれに気づけなかったのか。それは話し言葉や環境音などは調だからだ。

 父様と剣を打ち合った瞬間、勢いによる音、木刀と木刀の擦りあう音。音が2種類になり魔力の粒子がカレンさんの時よりも多く寄っていた。

 音が何重にも重なることで魔力の粒子は、より多く寄るということだ。


 とりあえず今は父様のカウンターをどうにかしないいけない。

 …剣術だけじゃ、勝てない。


 イラは真横に走り、木刀がいくつも入っている木箱の中から木刀を1本取り、再び構えた。


『ほう…』


 コージスからしたら不自然でしかないだろう。2刀流の流派は【隻神流】というのがある。けど、イラは2本の剣を持っているのにも関わらず【瑠神流】の構えをとっているのだ。

 イラは考えた。詠唱では体内の魔力は少ししか動いてくれない。

 それなら


 と。


 そしてそれは間違っていなかった。


「【アクアウェール】!!!」


【アクアウェール】は身体強化できる水の中級魔法。普通のイラでは間違いなく発動することのできない魔法。


 イラは持っている2本の剣を顔の前で2度打ち鳴らし、同時に詠唱を行った。

 剣の擦れる音、打ち付けた音、詠唱。すべてが口元で行われたことで3重の音が出来上がった。集まった魔力の粒子+体内の少量の魔力によって中級魔法を発動することができた。


【アクアウェール】で速くなった状態で、イラは再びコージスに突っ込んだ。1撃目は同じだった。しかし、2撃目はコージスのカウンターよりも早く、イラの第2の刃はコージス目掛けて放たれる。

 しかし当たる寸前にコージスは後ろに飛び、避けることができた。


 逃がさない!と父様に詰め寄ろうとした瞬間、父様は剣を真下に刺し、庭の入り口を指でさした。

 僕は襲る襲る指の先を向いた。そこには周囲に黒いオーラが出てるように見える母様が立っていた。どうやら朝食の時間が過ぎていたらしい。


「ごめんなさい母様!今行きます!」


 慌てて木刀を降ろし、母様の方へ走った。

 その頃には魔法の効果は切れていた。


 ―――――――――――――――――――――――――


 素直に驚いた。

 兄や姉と比べ体力も力もあるわけではなく、耳も聞こえない。

 普通に考えれば剣術なんて向いてないだろう。


 だが、どうだ。

 今目の前で木刀を構えている息子は、他の兄姉よりも早く自分に合う流派を見つけた。基本を教え終えた後の予定だったんだがな。


 律儀に宣言をして走ってくるが、何かを探っているようにも見えるな。

【瑠神流】は手数で勝負する流派だ。1度攻撃のリズムを途切れさせれば、立て直しは難しくなる。

 だから1撃目を受けた後、すぐさま蹴りを入れた。


 リズムを崩すことはできたし、距離も取ることができた。

 しかしまさか蹴りの受け身を取られるとはな。2撃目も来る気配はなかった。

 あえて受けたのか?


 飛ばされたあとすぐ何か考えているようだったが

 考えながら行動することは良いことだ。


 そして、まさか短時間に2回も驚くことがあるとはな。

 非力ゆえの1撃目と2撃目の間の遅延を無くすために【瑠神流】と【隻神流】を合わせな。

 息子の詠唱を聞くまでは…


 さっきと同様に突進し剣を打ち込んでくるが、さすがに速さも力も違うな。

 寸前で2撃目を躱せたが、次は分からんな…。

 そう気を引き締めたときには遅かった。視界の端には何やら圧を具現化させたものを出している嫁だ。


 木刀を地面に刺し、追撃を狙っている息子に静止の合図を出して、嫁の存在を知らせた。

 息子は嫁の存在に気づき、嫁の方へ走って行った。


 まさか自分の息子が【魔剣神流】を扱うとは思っていなかった。

 …いや、よく考えればおかしなことではないのか。

 剣師と魔導師の子供なんだからな。


 コージスはイラが無意識で使った【魔剣神流】の1撃を受け、わずかに震えた手を眺め思った。

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盲音の彼方 湯奈 @haru_21

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