2. 恵まれた日
図書館はまだ閉まんないけど、なんでか早く帰ってきてほしそうだったな。
やっぱり1人で行かせるのは心配だったのかな。
まぁ休むのも大事か。
そうこう考えてるうちに家に着いた。
「ただい…」
『『『『『お誕生日おめでとー-!!!!』』』』』
家のドアを開けると玄関で僕以外の5人が、パンッパンッと破裂音と共に誕生日を祝ってくれた。
そっか、今日は僕の誕生日だったのか。
「び、びっくりしたぁ。まさかこんなに盛大に祝ってもらえるとは…」
周りを見ると、いたるところに飾り付けがされていて豪華すぎると思えてしまうほどだ。破裂音は水魔法で泡を作り破裂させたんだろう。水滴がキラキラと光り舞っている。
『イラも今日で8歳だもん!今年から魔導学校の初等部に通える歳よ!』
『だからせっかくなら今年は盛大にしようって話し合ったんだ』
だから僕を1人で行かせて、早めに帰ってきてほしかったのか。
「嬉しいです。ほんとうに」
心の底からでた言葉だ。自然と顔は緩んでいたと思う。
みんなが釣られて笑顔になっているのを見て、そう思った。
『ほら、リビングに行きましょ。御馳走とプレゼントがあるわ』
『は-い』
母様は手を叩き言った。
姉様と兄様とカレンさんは母様についていき、リビングの方に行った。
『改めて誕生日おめでとう。大きくなったな』
1人残った父様がこっちを向き、僕の頭に手を乗せてそう言った。
こういう時にそんなことを言うなんて、この人はずるい。
淡々と言っているのに心がこもっているのが分かる。だからこそ心に響く。
「はい、今日は、とてもいい日です」
『…行こうか』
そう言って、手で目元を擦る僕の背中を押し、リビングへと行った。
―――――――――――――――――――――――――
『はい、イラ!』
御馳走が置いてあるテーブルに全員が座ると、真っ先に姉様が袋に包まれたプレゼントを渡してくれた。
「開けてもいいですか?」
『もちろんよ!』
袋を開けると中にはクマのぬいぐるみが入っていた。
『私が縫ったのよ!』
「すごいですね!ありがとうございます!」
売っているものかと思ったけどまさか手縫いとは思わなかった。
手が込んでいて本当にすごい。
姉様が満足顔で胸を張っている。見てる方まで満足しそう。
『俺のはこれだな』
兄様がリボンの巻かれた四角い物を箱をくれた。
箱を開けると中には1本の透明なペンが入っていた。
『そのペンは魔道具なんだよ。魔力を通して使うと文字も魔力を帯びるんだ。俺にはいまいち使い道が分かんねぇけど、イラなら何かしらに使えるんじゃねぇかと思ってな』
「ありがとうございます!まさか魔道具を貰えるとは思いませんでした!」
兄様にお礼を言うとなぜか姉様に向けて自慢げな顔をした。
それに対して姉様が『はぁ!?』と言っていたが気にしないことにした。
『私からはこちらです』
そう言ってカレンさんは自分の後ろから前に出して、見せた。
半分で色が違って、片方はチョコレート、片方はショートケーキになっている。
全体的に苺が多く、とても綺麗でおいしそうだ。
「ありがとうございます!食べるのがもったいないぐらい綺麗です!」
カレンさんはニコッと笑い、『よかったです』と言ってお辞儀した。
『私たちは2人で選んできたの』
母様と父様がそれぞれ違うものを渡してくれた。
母様からはゼンマイの付いた、木の置物。父様あらは1冊の本。
『その置物はオルゴールといってゼンマイを回して離すと音楽が流れるの』
試しにゼンマイを回して離すと、本当に音楽が流れていると思った。
......?
「母様、これって何かの魔道具ですか」
『いいえ?特に魔力を利用したものではないはずよ』
「…そうですか」
気になることがあったけど、今はせっかく祝ってもらえているので後回しにした。
「もう1つのこの本は?」
『それは王立魔導学園の入学説明書だ』
「!?」
今日2度目の驚きをした。
王立魔導学園は母様の母校であり、一流の魔導士になるための魔法に関して最先端の技術を教わるところだ。
初等部には8歳から中等部は12歳から通うことができる。僕の場合、今年から入学することができる。
最初の何ページかを軽く読んでいるとあることに気づいた。
「…母様たちはこの本読みましたか?」
『お店にある段階では読めないから、イラが初めてよ』
「ここを見てほしいんですけど…」
僕は本をみんなの方に向け、読んでほしいところを指した。
そこにはこう書かれている。
[初等部の入学には記述試験と実践試験を行う。また、今回からリスニングでの試験を新しく行い、3つの試験の内いずれかが0点の方は強制的に不合格とする。]
.........
数秒の沈黙があり、全員が同時に気づいたのだろう。
焦っているのが分かるくらい、一斉に大量の水文字が浮かび上がった。
読みずらくて細かくは何を言っていたのが分かんなかったけど、全力でフォローしてくれてるのは分かった。
パンッッ!
僕はとりあえず落ち着いてほしかったから、思い切り手を叩いた。
「大丈夫ですよ」
僕は笑顔で言った。
強がっているように見えたかもだけど本当にそう思っている。
『でも、この試験内容じゃイラの合格は…』
できないと思う。今のままでは。
この本を選んでくれた父様と母様が本当に申し訳なさそうにしていた。
「この本によると中等部ではリスニングでの試験は行わないそうです」
そういうとみんな少し表情が明るくなった。
「でも僕は、母様がそうだったように初等部から王立魔導学園に行きたいですし、4年の間、自力ではいくら母様がいても限界があると思います」
そう言うと再び顔が暗くなった。
ずっと母様のようになりたいと思っていたからこそ、それは変えたくない。
「初等部の入学試験はあと半年後だそうです」
母様と父様は言いたいことが分かったのか、顔を上げまさかと言いたげな顔でこちらを見た。おそらくそのまさかだ。
「僕は入学までの半年で、絶対に音の聞こえる状態になってみせます」
それを聞いて姉様と兄様とカレンさんは驚いた顔をした後、心配そうにこちらを見た。
『本当にそれで大丈夫なの…?」
『俺たちと同じで中等部からでもいいんだぞ』
姉様と兄様は初等部の入学試験と同じ日に行われる中等部の入学試験を行い、一緒に学園生活を始める予定だった。
僕が中等部から入学すると決めてしまうと、4年間離れ離れになってしまう。
「僕はできるだけ長く姉様たちと一緒にいたいです」
2人のことが好きだから。
それを聞いて姉様は顔を抑え椅子に座り、兄様は顔を僕から見えないようにした。
「もともと学園に行く前までにはどうにかしたいと思っていたんです」
そう、ただ自分の限界を超えなくてはならない期間を貰えただけだ。
「僕1人では絶対に無理です。手伝ってくれますか?」
姉様は顔を手で拭い、立ち上がり『もちろん!』と言った。
兄様も指先で顔を拭った後、『おう!』と言った。
カレンさんは両手を胸の前で握り、力強く頷いた。
母様と父様は当たり前と言いたげな顔で、けど決意を決めたように頷いてくれた。
本当に恵まれている。
「ありがとうございます!!」
僕は満面の笑顔でみんなにお礼を言った。
そのあとは沢山の御馳走をみんなで食べた。
カレンさんと母様の作る料理やっぱり絶品で、あっという間に全部食べ終わってしまった。姉様と兄様はたまに取り合いをしていて、めでたい日だけどとても日常という感じがして逆に嬉しさが増した。
お風呂に入り、とても眠かったので気になることも明日にお預けし、ベットに飛び込んだ。
部屋に帰る際、みんなからおやすみと言われて、少し1日が終わるのが寂しくなったけど眠気には逆らえなかった。
本当に良い1日だった。
多分これから先でこんなにも濃密で、嬉しい誕生日なんて来ないんだろうな。
そう思っているうちに、意識は落ちていった。
その夜に見た夢には…
遥か遠くで何かを口元に当てている男のような女のような人がいた。
―――――――――――――――――――――――――
「…やっぱり」
これは…僕を次の段階に進めてくれる!
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