年越し

尾八原ジュージ

年越し

 大晦日、仕事帰りのわたしは疲れた体を引きずって、とぼとぼと家路につく。

 どの店も日暮れまでにはシャッターを閉めている。仕方ないのでわたしは路地裏に赴き、そこで何なのかわからない煮物を売っているおじさんから、器一杯の何かを買う。

 家に帰ると、食卓には家族が宴会をやった跡がそのまま残っている。肉を焼いた後の煙を吸いつつ、ダイニングテーブルの隅っこで何の煮物かわからないものを食べていると、暖簾の影から弟がこちらを見ているのに気づく。

「何食ってんの?」

 と尋ねられるので、

「知らない」

 と答えながら器の中を見せる。弟は食べたばかりらしい肉をその場に吐き戻す。

 わたしは酸っぱい臭いを嗅ぎながら器の中身を食べ終え、口の中から何かの骨を取り出して三角コーナーに捨て、器を洗って水切り籠に伏せ、台所を出る。そのとき、弟が「あんなもの食べるなんて頭おかしい」と、わたしに聞こえるように言う。

 そっかーそうだねぇお前はそんなわたしと血が繋がっているんだよ悲しいねぇ悲しいねぇ。

 そう言いながらわたしは弟の髪を掴み、柱の角に何度も何度も顔をぶつけてやる。柱も床も血で汚れてしまい、弟はもう一度吐いて痙攣し始める。

 しょうがないなとぼやきつつその辺を掃除していると、知らないうちに年が明けて卯年。わたしはカウントダウンの機会を逃したことに気づき、さめざめと泣きながら弟を猫車に乗せて夜の街に出る。

 路地裏で何なのかわからない煮物を売っているおじさんに弟を売ると、おじさんは「ちょっとおまけね」と言ってわたしに二千円をくれる。途端に嬉しくなって、わたしはスキップしながら家路につく。

 入浴を済ませて寝室へ向かう途中、両親の部屋を覗くと、裸の母親が裸の父親の上に乗っかって腰を振っている。こりゃ新しいきょうだいができるかもね――なんて、わたしは微笑ましい気持ちで布団に潜り込む。今度は妹がいいな。

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年越し 尾八原ジュージ @zi-yon

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