日の出
五丁目三番地
初夢
年が明けた。31日ぐらいは、と壁際に寄せられたままだった小さなテレビを引っ張り出してベットの上に乗せた。脚には少し埃が積もっていて引っ越してから経ったあっという間の3か月分の汚れが鎮座していた。年末年始といっても特に変わったことをするわけでもなく、酒を飲み、一応のあけましておめでとうを友人各位に送り、茹で過ぎてぶちぶちと切れてしまったそばを咀嚼して飲み込んだ。窓を開け、冬の冷たすぎる空気が骨身に沁みる。all my loving.ヒットメーカーの英国バンドが歌っているように全てを愛することはできるのだろうか。私が持つ愛はせいぜい担当した中学3年生達が無事に志望校に合格して欲しいと心許無く祈ることだけだ。年の瀬にもきっと彼、彼女らはせっせと問題集と向き合っているのだろう。少しくらいは休んでくれていると良いのだが。いつもより多めの宿題を出した教師側の私が祈って正しいのかは分からない。三ヶ日くらいは自分以外の温もりと抱き合って暖かく眠りたい。昨年まではまだ側で眠っていた愛しかったはずの彼の後ろ姿が急に思い出されてなんとも悲しい気持ちになった。いびきがうるさくて、寝相が悪くて、甘えたがりの可愛い人だった。テレビ台の埃のように思い出を叩けば愛おしさがいまだに出てきて涙腺を揺るがせる。ずっと、この先も、結婚したら。確実性のない将来の話は嬉しくもあり、悲しくもあった。結局いつかはこうやって離れて彼を思い出してしまうのだから。早朝4時を過ぎたがまだ初日の出は見えない。愛しさしかなかった彼も今は同じ国で同じ年を迎えている。彼のうるさいいびきが聞けないことだけが切なかった。初夢に出てきた彼はいびきが静かで、それがまた悲しくなって目が覚めた。上り切った朝日は明日もこれからも死ぬまでもずっと私に影を落とす。
日の出 五丁目三番地 @dokoka
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます