第46章| 荒巻-持野-足立トリオ、始動! <2>コーディネートはこーでねーと
<2>
「フッ。俺は言うつもりなかってんけど。この口が勝手に言うてたわ。カンニンしてなぁ~」
自分の頬を自分でペチペチ叩きながら奥歯まで見せて笑う荒巻先生の隣で、持野さんがすまなさそうな顔で言ってくれた。
「里菜ちゃん。荒巻先生は、ときどき、いいえ、結構な頻度で口が滑ってしまうんだけど、それほど悪意はないから安心してね? 」
「あ。は、はいっ! 」
「マジメな話、オールブラックコーデは安易に黒マットでまとめたらあかんわ。黒のワントーンで全身コーディネートするなら、素材や質感を変えて、奥行きを出すんやで」
「なるほど、明日から気をつけます」
「おー、素直でええなぁ。素直が一番、伸びしろあるわ」
突然、荒巻先生がビシッとポーズを決めた。
少年漫画『ジョジョの奇妙な冒険』で見たことがあるような、難しそうな立ちポーズ。
鍛えた身体のせいか、ピタッときれいに止まっている。
「・・・・・・なぁ里菜ちゃん。産業保健スタッフは、歩くロールモデルになるべきなんや」
「そ。それはいったいどういう意味でしょうか・・・・・・」
「百聞は一見にしかず。隗より始めよ。陰気臭い顔して、苦虫噛みつぶしたような顔で働いてる産業保健職の言う『ストレス対策』に、誰がついてくるん? だらしない身体でヘコヘコ歩いてる保健師から栄養指導されて、ハナシ聞く気になるかいなぁ?
特に俺の担当契約先は、ファッション・美容系の会社が多いんやわ。だ・か・ら。身も心も明るく! 元気に!
「は、はいっっっ。わっ、わかりましたぁ! 」
ぺこりと頭を下げて顔を上げると、目の前に荒巻先生がいて私の顎をクイッと持ち上げ、しげしげと眺めてきた。・・・・・・ん? 動きが早い! 瞬間移動!?
「ふーむ。キミ、素材は悪くないんやな。磨いたらワンランク、ツーランクあっという間に上がれそうやわ・・・・・・。もうちょ~っと美容体重に近づけてもええかもなぁ? 明日の夜、俺の美容クリニックに、
「・・・・・・・・・!!? 」
「荒巻先生! 里菜ちゃんは健康的な範囲の体重ですよ。無理に美容体重を目指す必要はないんです。それにご自分のクリニックに、スタッフを利益誘導しないでくださいッ」
「あ~。そかそか。せやったら、まずは自助努力で頑張ってな。ちなみに『アラマキ・ビクトリー・クリニック』は絶賛開業中♪ 美容医療全般、ニンニク注射、全身脱毛、痩身治療モロモロやってるで~♪
お知り合いには『アラマキ3150、“アラマキ・サイコー”』の合い言葉で特別割引もあるんやて~、ほな、帰りま~す♪」
大きなトートバッグを担いで、荒巻先生が帰ろうとしている。
「もうお帰り・・・・・・ですか? 」時刻はまだ朝の10時なのだ。
「いったん休憩や。今日の仕事のメインは『夜』。キャバクラで中小の社長を接待。新規案件獲得の予感やな」
「大丈夫よ、里菜ちゃん。私たちは事務作業がたんまり残ってるから、このあと一緒にやろうね」
荒巻先生がドアの方に向かって歩いて、振り返った。
「あ。そう言えば里菜ちゃん。この前、鈴木とお疲れ様会行ってたなぁ。で、どうやったん? 」
「えっ。ど、どうって・・・・・・」
「あいつに『鈴木セブン』ってあだ名付けたの、実は俺なんやで。一回うっかりあいつの上半身を見てもうたんやけど・・・・・・、あいつ、意外と細マッチョで腹筋割れてたやろ? 」
「えっ。えっ。腹筋! 私、鈴木先生の腹筋、見たことないです・・・・・・!!! 」
鈴木先生の細マッチョ腹筋がポワワワ~と頭の中に浮かんで、自分の顔がじんわり熱くなるのがわかった。
スーツの下は細マッチョ・・・・・・なの!? そうなの??
「フーン。なんだ。
荒巻先生がボソっと呟いたのが聞こえた。
「ほな。あとは二人でよろしくゥ! ♪コーディネートは~~、こうで、ねぇと~~♪ フフフン♪ 」
荒巻先生は、ご機嫌で歌いながら部屋を出て行った。
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