生きてさえ

 君が生きてさえいてくれたら、僕はとても嬉しい。この残酷な世界で、君がそれでも祝福されて生きているということ。それを僕は奇跡と呼びたいのだ。というポエムをつらつらと考えながら、俺は靴を履いた。同窓会に行くのだ。もしかしたら、彼女は来ているかもしれない。一縷の望みをかけながら、俺は外に出た。


「和樹ぃ、久しぶりだなぁ」

「そんな久しぶりじゃないだろ。1週間前も会った」

「ガチレスすんなって〜」

 目の前にいるのは、元同級生で親友の和田壮馬である。

「てかさ、花橘さんいる?」

「えっお前もしかして告白すんの?」

「いや、せんけど」

「せんのかい」

 ずっこける壮馬。

「まずは外堀からだろ」

「っていうか、在学中に一言も声かけられなかったおまいう〜」

「うるせぇ」

 蹴飛ばす真似をすると、壮馬はキャッとふざけて避けた。



 和樹、まだ花橘さんのこと好きなんだ。花橘さん、高嶺の花だったもんな〜。すごい綺麗で、凛としてて。弓道部だったのも似合っててよかったな。いつも背筋が伸びていて。二年前に亡くなったけど。交通事故で。あの時はみんな悲しんでたなぁ。俺も同じ気持ちだった。あれから和樹はおかしくなった。なるしかなかったんだろう。和樹はまだ花橘さんが生きてると思ってる。好きな子が亡くなったなんて、そう簡単には受け入れられないよな。和樹。あれからずっと、和樹の時間は止まったまま。俺は和樹のそばにずっといる。彼が事実を受けいられる日は来ないかもしれない。彼の妄想に付き合ってる俺も悪いけど。でもさ、どうすればいいっていうんだよ?



「花橘さん来ねぇな〜」

 そうぼやく和樹を、周囲は悲しそうな目で見ている。同級生は和樹がどうなってしまったかを知っている。誰も本当のことは言わない。その配慮がありがたかった。

「今日はもう来ないかもな」

「あっ! あれ花橘さんじゃない?」

 和樹はそう打たれるように立ち上がった。その視線の先には誰もいない。

「和樹」

「俺ちょっと行ってくるわ」

「和樹!」

「なんだよ」

 怪訝そうな和樹の顔。

「花橘さん、結婚したんだってよ」

「嘘だろ」

「いや、ほんとほんと。去年に」

「嘘だ……」

 崩れ落ちる和樹。

「あ〜〜〜〜」

「ごめんな、黙ってて。後で慰めてやるから」

「うぅ……」

 泣きべそをかく和樹。俺は彼の肩を抱いた。俺だけは、お前の一生の親友でいるから。だから、花橘さんのこと、思い出にしろよ、早く。

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