第4話 忘れじの君たちへ

アルヴィスによるフェイス狩り作戦の効果は抜群だった。


幾つもの死線を掻い潜ってきた異能対策の専門家といえど、一般人の前にはあまりにも非力すぎた


異能者だけならまだ勝ち目はあったが、一般人相手に手を挙げることもできないフェイスは防戦一方だ


「皆の働きのおかげで作戦も上手くいっている。この調子で人類の脅威を皆で退こうではないか!」


六道らの進撃は止まらない。

次々とフェイスの支部を壊滅へと追いやっていった





何の疑いもなく自分たちの脅威であるフェイスを排斥する人類を見て六道は嗤う



「本部さえ陥落おとしてしまえば俺達の勝利だ!各員、襲撃の準備をしろ!」





すでに士気が落ち、少しずつ後手にまわりつつあったフェイスにかつての抑止力はない。


アルヴィスの軍勢はついに内部にまで侵攻していた

本部には戦闘員だけでなく医療班などの非戦闘員も姿もあり

その中には敷島の姿もあった


「敷島隊長ここは危険です、どうか避難を!」


「くっ!」


スーツを着た異能者に先導されながら敷島は出口を目指す


出口の光は大きくなっていく、もう少しだ


「は、はやく脱出、うおアゴォ!!」


突如壁が吹き飛んだ。

六道恭介

フェイスが特に問題視している異能者が待ち伏せをしたのだ


「こんなゴミを庇わなければもう少し長生きできたものを。」


敷島を庇ったことで命を落としたフェイスの異能者を見て六道は毒づく


彼のライバルであった輝もそうだ

異能者は皆力を持たない人間たちの為に命を落としていく


「その思い上がりが危険だと言っているんだ。存在を秘匿し人間に管理する必要がある」

死にぞこないが、生きているだけでもありがたいのに今度は説教か


「世のため人のためと言いながら道具としてこき使うお前が言えたことか?」


六道は剣を振るい敷島が死を覚悟した


その時一つの影が割って入った



「そこまでだ!」


ヒーロースーツを纏った男の放った蹴りが刀身を破壊したのだ


しかし、二人が驚いたのはそこではない


六道と敷島にはその姿は見覚えがあった。十数年前、六道を追い詰めたヒーローだからだ

沈黙を破ったのは六道の方だった


「輝ではないな、お前は誰だ!」


そうだ、

ヒーロースーツの男は黙ってマスクを脱ぐと


「俺は田中敬一、お前たちに命を奪われ、死すら秘匿された異能者たちの死を報いる者だ!」


「あの時のガキ・・・」

「貴様、0.028%の確率を引いたのか」


二度も異能者を犬死にさせた男

記憶を消した一般人


そんな取るに足らない男が自分たちの前に立ちふさがると思ってはいなかった



「だがどうした。貴様は一人、ちんけな鎧を着こんで俺達・・の敵ではない」


六道に自信はあった

自分には異能者だけではなく一般人も付いていたからだ


「・・・お前が信頼してる協力者は果たして信用していい人間かな?

「なに?」


田中の放つ意味深な発言は、直後鳴り響いた通信で答えがわかることとなる


「〈協力者〉に攻撃を受けている。能力者でもないのに・・・こちらはもう限界だ」


「その一般人はおれの味方でな。お前たちを泳がせるために一般人たちにも芝居を打ってもらってたのさ。」


「我々が世間に異能者の存在を隠し通していたように我々だけに情報を秘匿していたというのか?」


そこで田中敬一はネタバラシする


「俺の能力は異能数値を下げること、この力でフェイスに悟られずに救助活動ができた」


これにより少しずつ信頼を集め権力者や警察をはじめとした組織とのつながりを持てた


こいつらアルヴィスに悟られないよう、フェイスになりすましたのは大変だったけどな」と田中は付け加える



敬一へとターゲットを変え、殴りかかろうとするも腕が動かない


右腕を見ると、腕が凍りだしていた


「義手だから感覚がなかったのが災いしたな。」


あの時、二人の合間に入って六道に蹴りを入れたのは敷島を守るつもりではなかった

氷は大男の全身を凍てつかせた


「非戦闘系の異能者である貴様がなぜ氷の異能を」

息も絶え絶えに最後の質問をしてくる


「さっきも言ったろう。俺には人とのつながりがある。お前たちのように小さな輪ではなし得ないほどの技術だって実現することもできるのさ」

「成程な、だから俺の部下も簡単に・・・」


人類の英知の結晶人工異能の前に六道はついに倒れた

アルヴィスは壊滅し、フェイスの人員も次々と逮捕されていった


「俺はお前が正しいとは思っていない!異能が知れ渡った今、これを悪用する人間は増え出す。国もまた兵器として扱うだろう。

その落とし前をどうやってつけるつもりだ」

補導された敷島は最後に田中に問いかけた


「目の前の問題を隠し通して自分達の間で解決できると自惚れてはいないし,人を疑いもしない。

お前たちのように目の前の問題を隠し通して自分達の間で解決するよりもっとうまく行くさ」


敷島はかけられた手錠をみて「そうか」とつぶやいた


異能の力を悪用するものがいる限り戦いは終わらない

偽りの平和の為に「なかった」ことにされた人々のためにも彼は戦うのだ

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忘れじの君たちへ〜アンチヒーローがすべてを救うまで〜 @sepatacrow

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