第3話 ヒーローの黄昏
異能者
一握りの人間が持つ潜在能力【異能】を保有する人間の総称だ
異能の数値が低ければスプーンを曲げる程度の力しかないが、数値が高ければ世間一般でいう魔法のような力を引き出すことができる
その奇跡のような力を人のために使ったり、悪事のために使う者も現れるのだが
そういった者を水際で対策し、世間から秘匿する組織があった
その組織の名は《フェイス》
今回は世界でも一握りしか知る者がいない組織の実態に迫っていく
時刻は六時、辺りも暗くなっていた頃
繁華街の裏から眩い光が何度も散った
看板が漏電し、火花が散っていると周囲には説明されていたが
実際は異能者が文字通り火花を散らし合っていたのだ
「俺は不良に絡まれた女の子を救っただけだ!あいつらはいいのかよ!」
「お前の言い分は取調室で聞いてやるよ!」
両手に雷を纏い、指から放電する若者をサラリーマン風の男は軽い身のこなしで避けていく
「ファイア!」
指を鉄砲の形に見立てると人差し指から火を噴いた
「わっ、熱ちっ!!」
二発、三発。若者は身をかわし、一発も当てられていない
しかし、それこそが隊員の狙いであった
地面に転がった火球は火の柱として逃げ場を失わせ若者に徐々に距離を詰めていく
「しまっ!」
手慣れた手つきで手錠を嵌めた
犯人を確保した瞬間、火は消え、街は静けさを取り戻した
「くそ、警察に突き出すのかよ、放せ!」
「少し違うがな、しばらくは帰れないと思え!」
この若者は秘匿組織に身柄を確保され、いつ異能に目覚めたか、裏社会の繋がりの有無を調べた後能力を消して鑑別書に届けられる
「ひいぃ〜、もう悪いことしねぇよぉ〜。」
体を抱き合い小動物のように怯える不良たちにフェイスの隊員は侮蔑の目を送りつける
異能事件は必ずしも異能者が悪いわけではない。
この一件は彼らにとっていい薬になったろう
しかし、その記憶も事後処理部隊によってすぐに忘れてしまう
結果として世の中はいつまで経っても良くならない。
誰も得しない一つの物語が幕を閉じたのだ
場所は変わり、フェイスのリラクゼーションルーム
ここでは仕事を終えた隊員たちが束の間の休息を満喫していた
「いくら頑張ろうと周りには認められない。俺たちが命をかけるだけ無駄なんじゃね?」
「せめて我々の協力者だけでも欲しいところだな」
隊員たちの話題は決まって仕事の愚痴であった
現状、フェイスは疲弊していた
いくら秘匿組織とは言え、人員の避難から異能者との戦い、戦後のケアまで全部をこなすのはあまりにも難しい
まして人知を超える存在を目の当たりにした一般人に落ち着いて逃げるように伝えるのは下手な異能者と戦うより骨が折れる
ここまでの負担は不必要なのではないのか?けして解決することのない問題に辟易していた
「げっ、事後処理部隊の敷島だ」
敷島英智(ひでのり)、事後処理部隊の指揮官でありながらリーダーとして活動してる男性だ
「まだこんなところで油を売ってたのか、休憩はとうに終わったろう」
異能者ではないが、ある意味異能者より恐るべき存在だ
そんな彼だがフェイスの職員からはあまりいい印象を抱いていなかった
無愛想で高圧的な態度をとる人間だったことや、秘匿組織特有のやり場のない怒りをぶつけるにはあまりにも適していたからだった
「お前達がこうして暮らせているのも《フェイス》の庇護があってからこそだ。せいぜい『処分』されないよう言葉には気をつけることだな、化け物ども」
敷島が去り際に放った一言は異能者達の神経を逆撫でるには十分すぎた
突如、携帯が鳴った
「至急、司令室に来てくれ」
わざわざ携帯を使うあたり隊員には聞かれたくないことが起こったのだと把握した
「我々が恐れていた最悪の事態が起こってしまった」
司令室にて呼び出された敷島を待っていたのは司令を含むフェイスの重鎮達であった
そうそうのことがなければまず会わないメンツだ
「とにかく驚かずにこれを見てほしい」
彼に見せられたのはテレビの中継であった
「ごきげんよう世界の皆さん。我々は《アルヴィス》、この偽りの世界に真実を告げる者だ」
「六道恭介」
テレビに映った見覚えのある顔に敷島は歯噛みした。
彼等が局をジャックしたこと時点で既に何らかの惨事が始まることは確定していたからだ
「驚かしてしまったこと誠に申し訳ないと思っている。
だが、
「ふざけるな!訳のわからないことを言って、テロ行為のつもりか!」
スタッフの一人が六道にくってかかる
男は動じることもなく軽く片手を挙げると取り巻きの一人が前に出て手をかざした。
ドン!!
直後、衝撃はスタッフをかすめ、後ろの壁が吹き飛んだ
失禁し、その場にへたり込むスタッフ
テレビ、ラジオ、SNS
あらゆるところで速報が流れ、目の前で流れてる映像がやらせではないことに皆が気づいた
「手荒なことをしてしまったが、こうでもしないと信じてもらえないからな。」
男は軽くため息をつき、カメラに向けて話しかけた
「ご覧の通り我々は普通の人間ではない
アニメや漫画で言うところな能力者を思い浮かべてくれればわかりやすいだろう」
この瞬間、フェイスが長年守り続けていた活動は水泡に帰したのだ
「我々としてもこんな力、望んで手に入れたわけではないことはまず知ってほしい。私としても平穏な日々を送りたいのだ」
どの口が言う
この力を悪用し、今日まで人類の脅威として暴れ回っていたのはこの男だ
「しかし、これほど強大な力を持てば悪用しようと画策する者も出てくる」
すると男はモニターに映像を流した
これは今までのフェイスが活動している動画だ
アルヴィス側に都合のいいように編集がされていた
「その名はフェイス。我々の仲間を言葉巧みに誘っては戦力として組み込み、抵抗するものに戦うようけしかけ、それでも歯向かうモノは殺された」
恭介は義手を取り外し、被害者である体で話を続けた
「今日まで話題にならなかったのは都合の悪いことを記憶処理装置を使い、今までひた隠しにしてきていたからだ」
「あの装置、やはり奴らの手に堕ちていたのか!」
先日、事後処理部隊が襲撃され、遺体ごと紛失していた装置がまさかこんなところにあるとは
「是非とも我々と一緒に戦ってほしい。異能者を野望の道具にするフェイスを倒そうではないか!」
今まで守ってきた存在が一斉に牙を剥き出した。これから一体、どうやって平和を守っていけばいいのだろうか
弁論しようにも信頼がない
「それで私に何をしろと?世界中の人間の記憶の処理は請け負いかねますが」
「いや、もっと簡単なことだ」と司令は言う
「私たち以外の全職員に情報封鎖を行い今の話をなかったことにするのだ」
ここまで来たら味方にまで隠し通すのか
でなくとも隊員達は爆発寸前だ、妥当な判断だろう
「わかりました、今後職員達は家族を含めた一般人の接触を禁止させます。理由は適当に考えましょう」
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