詩集『心が酸化する』

 花


牡丹崩れる 桜散る

菊が舞えば 雪柳吹雪く

椿が落ちる 梅がこぼれる


また何かを失って でも世界は変わらなくて

いつかそのことも忘れて そこにはまた新しい花

有が無を蝕んでいく 透いた空には雲がある


夜が崩れる 命散る

風が舞えば 言葉の吹雪く

こころが落ちる 涙こぼれる




 待っている


待っている ただ待っている

電車を 花を 春を 信号を


秋雨が降りている 足音みたいに冷たく鳴る


待っている ただ待っている

涙を 夢を 晴れを あの日々を


蜘蛛の子を散らしている 人が周りから消えている


そうだ、それが来る必要なんて無かったのだ


待っている ただ待っている

待っている ただ待っている


ただ



 死んでしまうなら


ドアを開けた 夜だった

金木犀が香った 見上げれば下弦の月


風が吹く どうも気持ちが良い

カーディガンが揺れて襟を絞る


蛇が見せる夢みたいだ


踏切の警報音 心の空洞に響いていく


死んでしまうなら こんな秋の日だと思った



 果実だって朽ちていく


悲しみが果実なら 喜びは酸素だ


じっとりと果汁を湛えたその身の色を

ゆっくりと外側から腐らせていく


どんなに深く涙しても

恐ろしいかな、いつかは笑えてしまう


空虚も激情も思想も春も

ぜんぶぜんぶ忘れてしまうのだ


だからわたしは蓋をする


わたしは心に蓋をする


隙間から漏れ入る酸素が

また涙を乾かしていく

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霜葉集 橘暮四 @hosai

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