歌集『枯尾花』
序
幽霊の正体は枯尾花だそうだ。随分と詰まらない話じゃないか。余白の無くなった世界ほど寂しいものは無い。貴方の消えた街ほど冷たいものは無い。もしも幽霊が枯尾花に過ぎないのだとしたら、あの夕ざれた空、アベリアの花、本棚の匂い、暗い天井、何処かの家から鳴るピアノの音、誰もいないライブハウス、甘く昏い夢、それらに見る貴方の影さえ、全て偽物だと言うのだろうか。
たそかれと袖振草に問う秋に君を見るままわたしもひとり
もの思うあやめを毟る衣手のしほたるままに傘も忘るか
ひとり食むアイスクリームの冷たさよこの痛みさえすぐに忘れる
ウヰスキーで焼けてく喉の冷たさで人生全部馬鹿にするのだ
靴紐がほどけてかがむ秋の日に踏まれた花と置いていかれた
枯れた花に涙を注ぐ生活を涙で雪いで花捨てるとき
あの角の金木犀がなくなった秋になるまで気づかなかった
アベリアを好きだと言ったあの人をアベリアに見るパブロフの犬
月影より昏い蛍の疎水から流れる静寂(しじま)雨の匂いと
水差しの毒を呷って思い出す貴方の顔に命を吐き出す
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