第32話 丁寧に

32話目


 ダルサン学長の行動は一度頭の片隅に押し寄せといて……目の前にいるのはヒーローと言う事か。


 「凄い回路だな。」


 見ただけでわかるほど存在感がある魔力回路だ。そこらでは見ないほど力強い魔力回路であり、ヒーローも才能ありきなんだと認識する。

 もとが魔術なのだから才能は必要だと分かっているのだが、肥大化している回路を見ると思わず恵まれているなと感じてしまう。それに個性と言う物自体が扱いやすいがために、武田の「墨を出す」様な何も出来ない個性じゃ無ければ誰にでもチャンスがあると思っていた。


 だが、現実はそう甘くは無いらしい。


「じゃあ自己紹介お願い。これから受け持つ生徒たちだから丁寧にな。」

「はぁ…」


 これには思わずため息も出てしまう。僕が教えるのはこれまでになかった奇妙な術なのだから、自己紹介は慎重にしたかったのだが、それを無鉄砲に突然行な和なければいけない状態にしたダルサン学長は一度頭を下げてほしい。

 しかし、自己紹介をしないわけにはいかない。


「つい先日自然力と言う物を発見し、自然力膨張症の治療方法を見つけたアルトです。君たちには自然力の扱いから自然力膨張症のことまで専門的な事を教えます。自然力は座学のみでは教えきれないため体育館等を使いますがご了承ください。あと相棒のピノです。」

「ピノですよろしくお願いします。」


 僕の担当は自然力全般。それ以外に教えれることはないからしょうがないが、出来る事ならもう少し教えれる科目があればよかったかもしれない。

 それは一途にヒーローの魔力回路を知りたいという願望からだ。


 まあ、これから半年間関わる事が多くなるので調べるチャンスは出てくるだろう。もし希望する人がいれば解剖とかしてみたいが、あまり希望を持たない方が良いだろう。


「と、言う訳で君たちがここで蓄える知識の一つは自然力だよ。世界的にも話題になったから知っている人もいるだろう。ヒーローならなおさら気になる事だと思う。だから特別に、呼ばせてもらった。

サプライズだ。喜ぶといい。」


 ヒーロー立ちは戸惑いを隠せていない人や目を輝かせている人がいる。しかし僕を見て一番の感情は、こんな少年が発見したのかと言う事だと思う。

 そこに居る腕が翼の人も、ダルサン学長がいなければ質問の一つや二つしたそうな顔をしている。


 はぁ、初対面の評価はそうそう変わる事は無いから整った環境で会いたかったんだけどな。ダルサン学長へ一、二発パンチを打ち込んでやりたい気持ちになってきたが、後に過ぎた事だから仕様が無い。

 それに、突然サプライズ何て言い出しやがったおかげで空気は凍り付いている。仕返しをする空気でもない。


「何か質問はある? 一年にも満たない期間だけど、わだかまりは無くしておきたいし」「それなら一つ、聞きたい事が有るんだが」

「何かな?」


 手を挙げてくれたのは立派な筋肉を持っているおじさんだ。子供を持っていてもおかしくない顔だが、こんな所に講習に呼ばれるなんてヒーローも大変だね。


「君が私達に自然力?を教えてくれるというのは分かったのだが、その自然力とやらは何が出来るんだ。」

「はぁ!!??」


 おじさんが質問してくれていた時突然後ろの方から大きな声が聞こえた。女性の声に聞こえたのだが、なにか起きたのだろうか。

 そう思っているとヒーローたちをかき分けて出てきた。


「あんた頭の中まで筋肉なのか!? ヒーローなら話題の研究知ってろよ!」


 どかどかと出てきたのは見た事が有る顔だ。


「個性に革命が起きるとまで言われている自然力だよ! 売れっ子で忙しいとは言え知っておきなさい。」

「知っているさ、話題の研究テーマなんだろ。昨日ニュースでやっていたな。」

「それは何も知らないって言うの!」


 ワンタイムウォーターさんだ。飛行機であった時はどこに行くのかあまり聞いていなかったけど、こんな所で会うなんて。それにしても自然力についてここまで熱心だったとは思わなかった。

 

「それならあんたは何が出来るか知っているのか?」

「自然力膨張症の治療が出来るようになった……」

「で、どうなんだ? アルト教授。」


 自然力で出来る事は、自然力膨張症を治すことくらいしか公表していないから知らなくても当然なんだけど、なぜか落ち込んでいる。


「そうだね。講義の先走りになるけど……自然力は個性の原動力だ。自然力を生産する器官を体から取り除けば個性が使えなくなる。とかでいいかな。」

「ああ。何も知らなかったんでな。講義を聞く必要があるかどうか知りたかったんだ。」


 半年も勉強に付き合わなければいけないのだからその間はヒーロー活動は出来なくなる。もし価値が無いと判断されたら帰国していたかもしれない。

 僕としては自然力を広めたいので帰られるのは嫌だが、もしそうなったとしてもしょうがないと諦めるしかなかっただろう。


「聞いていましたか? お姉さん。」


 まだ落ち込んでいるワンタイムウォーターこと、お姉さんに声をかける。まだこちらには気付いていないようだ。


「……お姉さん? あれ、少年じゃん!?」


 やっと気付いたようだ。と言うか校舎にいた時も、ここに降りてきた時も、自己紹介している時も僕の事見てなかったのかな?


「なんでこんなところにいるの?」

「ここに雇われたからですよ。お姉さんがここにいるとは思いませんでした。」

「私もだよ。それで、この後はなにするんだ?」

「僕もよく分かっていないんですよね。ダルサン学長何をすればいいですか?」


 予定とかは何も聞いていないので何もわからない。教授として無様に感じるが、伝え無ければいけないとをすっぽかしたダルサン学長のせいだ。


「あ~、他の教授の紹介は終わっているから、好きにしていいよ。」

「好きにしていい?」

「そう。今から授業を始めてもいいし、休み時間にしてもいい。あ、でも帰るのはなしね。」

「何も用意してないんですが」

「ノリとフィーリングだよ。」

「はぁ。わかりました。それなら体育館を貸してもらっていいですか?」

「いいよ! 好きに使いなよ。壊しても直せるやつはいるからど派手にやっちゃいな!」


 もし昨日ならば断る選択肢もあっただろうが、教授になってしまった手前断る選択肢はなくなっていた。

 仕様がないので授業に入る前に自然力がどういうものなのかを体験してもらうことにした。筋肉のおじさんは何も知らないみたいだしね。


「それじゃあ行きますよ。」


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魔術師は異能の世界で散歩をする 人形さん @midnightaaa

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