第31話 校舎
31話目
そこはヘラクレス学園。
ロンドンの近くにあり、止まった宿から2時間もかからなかった。そんな場所には自分がちっぽけに思ってしまうほど大きな建物があった。
日本にいた時に見たショッピングモールなんて子供のおもちゃに感じてしまうほどの敷地であり、今日からここで務めるのかと思うとドキドキしてしまう。ピノは自分の事ではないとばかりにフードの中でぐうたらしている。実際僕がやる事なのでピノが緊張する事ではないのだけど、手伝ってもらう事はあるので少しくらい緊張すると思っていた。
「じゃあ入ろうか。」
レイリーが通っていたというヘラクレス学園に足を踏み入れる。イギリスに来た時は緊張のかけらもなかったけど、目の前に来たら別と言う事だろう。
門を通り校舎へ行こうとする。
「あ、」
その時、全身を撫でられたように感じた。
【青】様の時とは違う感覚だ。だからと言って危険性が無いということではない。しかし、この感覚は知っている。
「見られている」
僕がそう言うとフードの中にいたピノはピクッと反応した。しかし気付いていることは知られたくない。頭を少し後ろに傾ける事で反応するなと合図する。
敵かどうかも分からないのだから出来るだけ情報は与えたくない。もし気付いていることが分かられてたら攻撃をしてくるかもしれないからだ。
だから何も無かったかのように校舎へ歩く。
そんな僕に気付くことなく、視線は今も途切れる事は無い。
広大な敷地のヘラクレス学園だけあって、校門から校舎までそれなりに距離があるので魔術を使うかと頭によぎる。
しかしピノのおかげでその必要は無さそうだ。
「視線はあの校舎からです。複数の人から見られていますが、敵意は無さそうです。」
「そう? ありがとう。」
ダルサン学長のコネで来た僕の事が気になったのだろか。まあ、何もないと分かれば気にする事でもない。
【青】様の事が合って敏感になっているので気付いたがいつもの僕であればピノが教えてくれるまでのうのうと歩いていただろう。少しは警戒出来ていると分かってよかった。
ただ見ているだけと分かり気にすることもなくなったので、ピノと戯れながら校舎へ向かう。
しかし見ているだけではなかったようだ。
「ピノ」
「分かっています。【遺伝子開放 獣化】!!!!」
ピノに合図したと共に僕も袖に隠し入れていた杖を取り出し、魔術の準備をした。
「君たち、見ていたな! この少年が待望の自然力の事を教えてくれるぞ!」
目の前には筋肉隆々な人や、人であるか怪しい人。さらには全身から炎が出ている人たち総勢約20人が僕の前にいる。
僕を見ていた視線の主が飛び出してきたのだ。何もしないと思っていたのだが、窓から飛び出してきた。
勘が鈍ったのか完全に想定外なのだが、万が一のために何かあった時に対処できるよう準備していたので杖を取り出す事が出来た。【青】様の時と比べてちゃんと改善できている。
しかし必要なかったようだ。
「ダルサン。何をしているんだい?」
「おはようアルト! びっくりしたかい。」
「あぁ、心臓が飛び出るほどびっくりしたさ。そのせいで杖の先にいる人を蛙にする魔術が暴発してしまいそうだよ。」
「ちょ!! やめてくれ。ほら、フォックス君もさっき渡した物を出してくれ!!!」
ダルサン学長に言われ前に出てきたのは腕が羽になっている白人だ。人一人分くらいの大きさの板を持って出てきたのだが、羽の腕には重すぎたようで引きずっている。
「もういいかな?」
「ま、待ってくれ。一緒に持つぞ、せーの ドッキリ大成功!!!」
その看板にはでかでかと日本語でドッキリ大成功と書かれていた。
「空間魔術 置き換え」
「え、うわ!!」
めんどくさい行ないに苛立ちよりも先に手が出てしまった。しかし杖の先にいたダルサン学長はギリギリのところで、ドッキリ大成功と書かれた看板を盾にすることが出来たようで、蛙になったのは看板だった。
まあ、看板が蛙になったのではなくそこら辺にいた蛙と場所を入れ替えただけなので人が当たっても大丈夫。
「ほ、本当にあたるところだった。」
そんな事は知らないダルサンはあたった後の事を考えてぞっとしているよう。
「そんな事はどうでもいいんですよ。その人たちは昨日言っていた生徒ですか?」
「……はぁそうだよ。」
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