第30話 教える
30話目
「ここまで聞いてやりたいと思いますか?」
「いや、いいよ。まだ生きていたいし。」
「賢明だと思います。」
そもそもそんな手術はしたくない。僕が研究をしたのは病に悩む子供を無くすためであって、個性を強化したいわけではないからだ。だから、この手術を公表したときも病気を治せる以外の利点は何も言わなかった。
「まあいいか。手術が出来ないことは残念だが、もう一つもう一つ聞きたい事が有るんだ。」
「何でしょうか?」
「今の私の状態でも使える魔術はあるかい?」
その質問が出た時僕は間髪入れず答えた。
「無いです」
「ほんとうなのか」
「ウソではないですよ。なんでなのかわ分からないですが。」
理由は分かっている。個性によって変質させられた魔力回路は一つの魔術しか使えないようになっているんだ。だが、これをいう必要はない。
魔力の事に関してすべて答えてしまうといらぬ疑いをかけられてしまうかも知れないから。
「まあ、そう言う事にしておこう。」
時すでに遅し。すでに疑いはかけられてしまっているようだ。
「私も魔術が使えるようになりたかったのだがね。」
「しょうがないですよ。そういう物だったんですから。」
「そうだな。魔術は無個性《《》》しか使えない。そうだろ?」
「研究の結果ではそうですね。まあ、僕以外に魔術を使える人は見た事が有りませんが。」
「そうかいそうかい。」
今僕は無個性と偽っている。個性を持っている人は魔術が使えないと言ってしまったため、魔術が使える僕は無個性と言う事にしたのだ。まあ、無個性の人は魔力回路がない《《》》ので魔術は使えないのだが、気にしなくていい。
ダルサン学長にも僕は稀な例と言っている。
「なら追及はしないようにしておこう。君にも事情があるんだろうからね。」
「ありがとうございます。」
「じゃ、別の話をしよう。君が担当する生徒たちだ。」
話を逸らすことが出来てほっとする。ダルサン学長が本気で聞いてきたとすれば赤裸々に語るしかなさそうだ。今の会話でもごまかしきれない所が多々あったのが、心臓に悪かった。
さすが『天才』と名を付けられるほどの個性を持っている。尋問にも慣れているのだろう。……もしかしたら今回が初めてなのかも知れないが。
「面倒な生徒と知っていましたね。」
「そうだよ。今回研修生徒として来てもらっているんだけど、なまじ実力があるから教えることが無いんだよ。うちの学園を研修場所に選んでくれたのは嬉しいけど、あんな人たちが来るとは思わなかったよ。」
「あんな人たち?」
「会ってからのお楽しみだ。どうせ君の研究に関しては殆どの人が素人だ。誰だって同じ。」
「そうですか。」
世界有数の学園であるヘラクレス学園でも手に余るほどの生徒と言うのはどんな人たちなのだろうか。相当の人なのだろうけど……
「あ、これだけは言っとかなきゃね。来るのはヒーローだ。」
「ヒーローが来るんですか?!」
「そうさ。個性を使い慣れている奴らだから君の講義にもついていけるだろ。本当はうちの生徒たちをお願いしようと思っていたんだが、それよりも適任の人が来たからな。めぐりあわせだ。」
「そうですか……ですが僕は手術が出来る人たちを増やしたいのですが。」
「結果は最短で求めるべきではないさ。結果的に手術の技法が広まるのはこっちだろうから勝手ではあるが、生徒は選ばせてもらったよ。」
「結果的に?」
「今回来る奴らは世界的に有名なやつらだ。そいつらに教えれば勝手に広まっていく。アルト君の名前もその研究成果も。」
「そう言う事ですが。」
……僕一人の力ではこの手術を広めることが出来なかったので、今回の勝手はいいのだが、一言いってほしかった。
「そんなわけでお願いできるかな?」
「分かりました。謹んで受けますよ。それほどの人たちを僕が担当すると言う事は、買ってくれているのでしょう? ならその期待に答えるまでです。」
「いい返事だ。」
本来ならそのようなヒーローたちの教授をするにあたって様々な手続きが必要なのかもしれないが、全てダルサン学長がやってくれるだろう。
ダルサン学長も僕も話すことが無くなったので世間話でもして、時間を潰したのであった。
「あ、そうだ。言ってなかったんだが明日から学園に来てくれ。」
「明日ですか? いいですが急ですね。」
「生徒たちの研修は明日からなんだ。手続きは諸々やっておくから。」
「分かりました。」
それから店を出て明日の為に休むのであった。
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