迎春

文重

迎春

 10歳になった元旦の朝、初めてお屠蘇を祖母に注いでもらった。三々九度のような優美な所作を目で追いながら、小さな盃を恐る恐る口に運ぶ。日本酒に屠蘇散という漢方薬みたいなものを混ぜてあると聞いたので、風邪の時に飲まされる粉薬の味を覚悟していたけれど、苦い上に焼けつくような痛みを喉にかすかに感じ、お世辞にも美味しいとは思えなかった。


 祖母と母と私の女3人で暮らす古い木造の家では、普段アルコール類が食卓に並ぶことはなかった。しかし、ぴんと背筋の伸びた祖母も真面目で優しい母も、元旦ばかりはほんのり頬を染めて饒舌になるのだった。


 あれから50年の月日が経った年末、片付けに訪れた主のいなくなった家で、桐箱にしまわれた屠蘇器を見つけた。酒と屠蘇散を調達し、元旦の朝、一番大きな盃になみなみとお屠蘇を注いで一気に杯をあおる。飲酒がもとで亡くなった祖父と父の仇を屠蘇散で屠(ほふ)る、祖母と母の姿を思い浮かべながら。

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迎春 文重 @fumie0107

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