第一章:エルレリア開村編
01:旅立ち
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魔法。
一部の者にしか使うことの出来ない、化学的に説明できない人為的な現象の総称。
一概に魔法と言えど、その種類は様々。
水魔法、炎魔法、雷魔法。
その三つが、主に発現する、基本的な三大魔法である。
そしてその力を使えるかは、生まれつき魔力を保持しているかで決まる。
そしてその力を持つ者のほぼ全てが、王族や貴族など、権威の持つ者であった。
だが稀に、平民の中にも、その力を持って生まれる者もいる。
その様な
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ある日、あるスラムの家で、ある男児が産まれた。
その家は、そのスラムの中では少し裕福な方であり、毎日の食事には、あまり困らない程の収入は得ていた。
その家に住む夫妻は、いつも仲睦まじく、平穏な暮らしをしていた。
近所付き合いも良く、皆に好かれていたその夫妻に子供ができたと言って、皆喜んだ。
妻の名は、ラーナ・フレーラ。
夫の名は、マグダ・フレーラである。
出産を終えた次の日の夜、皆はその夫妻の家で、小規模な宴会を行った。
裕福でもスラムなので、そこまで大規模なものは出来ない。
だが、何とか酒は入手出来た。
その酒は、それ程高い酒では無かったが、その祝いの場で飲んだその酒は、今まで飲んだどんな酒よりも美味しかったと言う。
そして皆が酔い潰れ、そろそろお開きかと話をしていた時、悲劇が起きた。
その赤子が泣き出した瞬間、酒の入っていた空き瓶が、突然宙に浮いたのである。
それを見た皆は、一気に酔いが醒め、その様子に、自分の目を疑った。
そしてその現象は、他の空き瓶でも起きた。
何十本もの瓶が、空中に浮き、暴れ狂う。
赤子は泣き止まず、それどころか、その声を大きくしていった。
そしてその声量と比例する様に、空き瓶の動きも荒くなっていった。
壁に当たり砕け散り、天井に当たって砕け散り、その破片が散らばって皆血を流し。
食器棚は倒すわ、机には穴を開けるわ、その惨事はどんどんと大きくなっていった。
そしてその赤子が泣き止むと同時に、その謎の浮遊は終わり、浮いていた瓶が、床へと落ちた。
壁には血が付き、床には血が溜まり。
倒れる者もいれば、さっさと外へと逃げ出す者もいた。
その惨事は、瞬く間にスラム中に知れ渡り、そのフレーラ家は、皆から軽蔑される様になった。
そしてあの惨事で、赤子の父、マグダは死に、母、ラーナも、重傷を負った。
暫く赤子と母は離れ離れとなった。
そして、母が帰ってきたと思えばその翌日、母は病気で寝込んだ。
顔を真っ青にして、ベッドに寝込む。
その時にはもう、赤子は少年となり、日々、母の療養に努めた。
朝は水を井戸まで汲みに行き、食事は自分で作る。
週に一回は市場に出て薬を買い、夜はひっそり家を抜け出し、働いた。
なんとか生活は出来ていたものの、あの惨事があった事で、少年の生活には、頻繁に邪魔立てが入った。
汗水垂らして必死に稼いだお金を、留守の間に盗まれたり、薬を床にばら撒かれたり。
それは、あの惨事があったからでもあるが、その原因の多くは、その少年が、魔力を所持していた事にあった。
あの惨事は、少年の魔法によるものであった。
平民の中で魔力を持つ者は、皆に軽蔑される。
それはその少年も、例外では無かった。
苦しい生活だったが、何とか生きた。
母の容態は、一つも変わらない。
よくもならないし、悪化もしない。
ずっとベッドの上で眠っている。
悪化しないのは、少年の買ってくるあの薬の影響が大きい。
あの薬が無ければ、母はとっくに死んでいただろう。
一見死んだ様に見えるが、脈はあるので、生きている事に間違いは無い。
そうして、毎日を必死に生きていた時、悲劇が起きた。
少年は青年となり、いつものように出稼ぎに行って帰ってきた時の事だった。
薬が全て、盗まれていたのだ。
いつもは床にばら撒かれる
一体誰が。
今はもう夜で、その薬屋など開いているはずも無い。
今行っても、薬を買う事は叶わない。
そして、今薬を投与しないと、母の身が危ない。
何とか、盗まれた薬を取り返しにいかなくては。
青年は、稼いできたお金の入った封筒を床に投げつけ、駆け足で家を飛び出た。
翌日、母は死んだ。
薬は見つからなかった。
青年は、滝のように汗をかきながら、母のベッドの傍で泣き続けた。
その後青年は、呆然と生きていた。
悪戯も、もう何も感じない。
母が死んだなら、もうする事はないと、生きる意味を見いだせなくなった。
そしていつも通り暮らしていたある日の事だった。
「はいっ、これ。」
近所の、自分より少し年上の男が、話しかけてきた。
そして、青年は、男の渡したものを受け取り、中を見た。
そこには、あの時盗まれた薬があった。
「無様な死に様だったな。屑な子の母も、所詮は屑か。」
男はそう言って、青年とその母を愚弄した。
その瞬間、青年は、人生で初めて、怒りを覚えた。
そして、怒りどころか、殺意さえも芽生えた。
此奴は殺してやる。
青年がそう強く願った時、その男の体が、宙に浮いた。
そしてその男は落ち、体を地面に強打した。
あの時の惨事のように、男が浮いたのだ。
男の腕が折れ、痛みで絶叫し、男は地面をのたうち回った。
青年は、これを良しとし、もう一度行った。
今度は、逆の腕を折った。
そして今度は、もっと高い位置から落とした。
そして、両足が折れた。
男はもっと絶叫する。
青年はそれが楽しくなり、永遠に続けた。
そしてある時、落とす高度を高くし過ぎてしまい、地面に接触した瞬間、その男の体は爆裂四散した。
内臓が地面に散らばり、返り血が体いっぱいにかかる。
周りの住民は、絶叫して逃げ回る。
母を散々愚弄した男は、ひ弱な叫び声をあげながら死んだ。
それが青年にとって、何よりも楽しく、狂気の笑いを高々とあげた。
次の日、青年は集落を発とうと決心した。
居心地が悪くなったのだ。
冷静に考えると、おかしな話である。
何も悪いことをしていないのにもかかわらず、皆に蔑まれ、軽蔑され、虐められた。
皆が自分を異形のもののように見て、避けられた。
もう、この毎日に飽きた。
ありったけの金と服を鞄に雑に入れ、皆が寝ている満月の煌めく深夜、青年はスラムを発った。
青年の名はエルダ・フレーラ。
行先に当てなどない。
エルダは、スラムの入り口の前にある樹海に、足を踏み入れた。
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