05:訓練
次の日からエルダは、筋トレを始めた。
エルダの浮遊魔法がどれだけ強力であっても、エルダの
元々エルダはスラムにいた頃、
だが、魔法を行使する上では、未だ足りなかった。
トレーニングのメニューは至極簡単で、朝起きて、ランニングを十キロして、朝食を食べて、筋トレして、勉強して、昼食を食べて、筋トレして、またランニングして、晩飯を食べて、ちゃんと寝る。
これが、毎日のメニューであった。
どれも、幼い頃に辛い経験をしたエルダからしたら容易だったが、グルダスは、余裕だなと感じた瞬間、もっとトレーニングをキツくしたのだ。
なので、前述したものを実践したのは初日のみで、次の日からは、ランニングの距離も格段に増え、筋トレもお、より体に負担がかかるものに変えられた。
エルダは毎日が地獄の様であったが、「大陸でただ一人の浮遊魔法保持者が自分である」という特別感と、折角使えるのだからそれを無駄にしたくないという熱い思いが、エルダの体を動かした。
トレーニングを始めて約二ヶ月後。
「今日から、魔法の実践練習をしよう。」
グルダスから、そう告げられた。
これは、魔法使用の許可と共に、地獄のトレーニング終了の合図でもあった。
エルダは肩の荷が降りた様に安堵の表情を浮かべると共に、「やっと魔法が使える」という強い期待を心の奥底に仕舞った。
「実践練習が始まる!」
そう期待していたエルダであったが、グルダスに連れてこられたのは、いつもの授業部屋。
グルダス曰く、「まず初めは、浮遊魔法についての基礎知識を頭に入れないと、碌に魔法を使いこなせない」らしい。
なのでエルダは、「これさえ乗り切れば実践できる!」という期待を胸に、グルダスの話を聞いた。
浮遊魔法は、言ってみれば、
浮遊魔法を発動するにあたって先ず知っておかなければいけない事は、「浮遊させるもののイメージを鮮明に連想しないと、そのものを浮遊させれない」という事である。
例えば、目の前にある机を浮かすとしよう。
その場合、先ず頭の中で、その机が浮かぶビジョンを鮮明に作り出して、その後、机を浮かす。
魔法発動のビジョンを作り出さないことには、いつまで経っても魔法は発動出来ない。
机などの物だと目の前にあるので連想し易いが、その動かしたい物が人間の体内にある物であれば、そのビジョンを作るのが困難なのだ。
例えば、心臓を動かして、相手を殺す場合。
魔法の発動者は、その「心臓が動くビジョン」を作り出しておく必要があるのだ。
それはどういうことか。
それは、事前に他人の心臓を見て、そのイメージを頭の中に留めておくのが大事なのだ。
要するに、浮遊魔法の訓練の始めは、色んなものを見て、覚えることから始まる。
人体解剖を眺めたりすることもあるだろう。
だがそれは、浮遊魔法を使う上で最も重要な工程であり、もしエルダが対人戦に巻き込まれた時、自分の安全を確保する為にも使える。
なのでエルダは、人体解剖の現場へを赴いたのだ。
その日の夜は憂鬱であった。
エルダが死者の体内を見たのは初で、何度か吐きそうになったがなんとか堪え、無事、大体の器官のイメージは掴めた。
ノイローゼ。
疲れた。
なのでエルダはその日、早い時間に就寝したという。
そして数週間後、エルダは、浮遊魔法を使う上での必須知識を手に入れた。
あとは実際に使って、その感触を体に覚えさせるのみ。
そして今日は、その魔法実践訓練の初日であった。
過去に何度か魔法を発動させていたエルダだが、あの時は、感情的になったが為に、咄嗟に発動できたものなので、意識的に発動した訳ではなかった。
なので、自由自在に、思うがままに魔法を使える様になれば、最早無敵なのである。
早速エルダとグルダスは、近くの誰もいない公園にやってきた。
家の中だと、暴走して色々と物を壊しかねないので、(多分)安全な公園へやってきた。
グルダスが、空き缶を地面に置き、エルダに言った。
「魔法を行使する上で最も重要なのは、『その魔法を発動させた時のビジョンを連想しておく』こと。つまり、この魔法を使って、どういう結果を望むのか。それを想像しながら使うという事じゃ。取り敢えず最初は、あの空き缶が中に浮かび上がるビジョンを描いてみ。」
そう言ってグルダスは、空き缶を指差した。
「(空き缶が浮く………………)」
エルダは、目の前にある空き缶に集中しながら、それが宙に浮くビジョンを、頭の中に浮かべ続けた。
そして、そうし始めて一分後。
カタカタカタ
突然、空き缶が微振動し、そのまま地面に倒れた。
「ま、まさか…………初めてでここまで出来るとは………………」
グルダスが空き缶をじっと眺めながら、カスカスの声でそう呟いた。
何やら、初めから魔法発動の兆しが見えるのは、凄いことらしい。
グルダスの呟きのおかげで少しやる気の出たエルダは、魔法練習を、陽が落ちかけた時まで続けた。
そうして、空が赤みがかってきたその時だった。
空き缶が宙に浮いたのだ。
何度が微動することはあったが、宙に浮くことはなかった。
浮くと言っても数センチだが、それでもそれは、大きな一歩だった。
エルダは、木陰で爆睡しているグルダスの肩を両手で激しく振って起こし、この事を報告した。
グルダスは、眠気で理解したかは分からなかったが、それを聞いて、優しい笑みを浮かべた。
それは、ここまでエルダを育てたのは自分なのだという達成感と、やっと終わるかもという安堵の混じった笑みであった。
だがエルダは、そんな事、知ったこっちゃなかったのだ。
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