03:大陸



 早速次の日から、グルダスの教育は始まった。

 先ず一日目は、エルダの無知さをグルダスが痛感したところで終わり、二日目は、エルダの育ったと言うスラムの周りの国々の話。

 三日目や四日目も同じ様なことの話で終わり、グルダスは、もう既に呆れ返り、心が折れかかっていた。

 だが、教えをやめないのには、理由があった。

 話をすると、そのたびに、エルダが笑顔で激しく相槌を打ちながら聞いてくれるのだ。

 こんな反応をされては、止めようにもやめれまい。

 グルダスは、その持ち前の根性で、エルダに、一般常識を教え込んだ。




 今居るこの大陸は、一つの森林を中心に、計四つの国で構成されている。

 大陸中央部に位置する、「メルデス大森林」。

 大陸西部に位置する、「カルロスト連邦国」。

 大陸北東部に位置する、「アルゾナ王国」。

 大陸最東部に位置する、「オームル王国」。

 大陸南東部に位置する、「サルラス帝国」。


 大陸中央部に位置する秘境「メルデス大森林」。

 大陸の半分程度の広さがあり、その中は、方向が分からなくなる程に大量の木々が、大森林一面に生えている。

 エルダがスラムを出て横断した森林も、このメルデス大森林である。

 この大森林には、馬や猪などの動物や、ゴブリンと呼ばれている知的生物も住んでいる。

 ゴブリンは、人間と同じ知性のある生き物で、森の中に村を作って生きているらしい。

 だが、そのゴブリンの皮膚や肉が高く売れるからと、サルラス帝国からゴブリン狩りに出掛ける人間も居るらしい。

 幾ら人間では無いと言え、人間と同等の頭脳を持つ彼らを殺しても何も思わないかと、グルダスは、つくづく疑問に思った。


 そしてそのメルデス大森林の西部に位置する国が、「カルロスト連邦国」。

 エルダが生まれ育ったスラムがあるのも、この国だ。

 この国は、大陸にある国の内特に治安が悪く、四つの国の内、唯一奴隷制度を認めている国である。

 国の面積は四つの中で一番広いが、人口は一番少ない。

 スラムが多数存在する国である。

 カルロスト連邦国の王は、ジャーナ・カルロストと言う。

 酒と女に呑まれた、国の統治も碌にしない王である。


 そして、メルデス大森林の北東部に位置するのが、今エルダやグルダスの居る、「アルゾナ王国」。

 大陸随一の発展国であり、見ての通り、その技術力も、大陸随一であった。

 立憲君主制の国であり、民主主義化が進められ、今では、大陸一の民主主義国として名をあげている。

 身分は国民(平民)と貴族の二つのみ。

 貴族と言っても、血の繋がりや家系などでは無く、平民の中で優れた者が昇格して成るものなので、元は皆平民なのである。

 身分があると言っても特にその格差は無く。

 貴族だから特別、平民だから貴族に従うなど、そんなことは一切無い。

 貴族と平民の夫妻などはよく聞く話であって。

 “貴族”や“平民”という名前があるだけで、中身の人間は、何ら変わりはないのだ。

 そんな平和な発展国であるが、その軍事力はイマイチであった。

 魔法師というものが未だ世に出ていなかった時代は、大陸最強の国として名を挙げていたのだが、今やどの国も優秀な魔法師団を作っていて、剣一本で戦うアルゾナ王国の軍事力は廃れていった。

 アルゾナ王国にも魔法師が居れば良いのだが、数が少数であった。

 なので未だに、馬にまたがり鉄の鎧を纏って、真剣を掲げて戦うというのがセオリーだったのだ。

 剣は近接武器なので、魔法師の使う炎魔法などの遠距離攻撃には弱かった。

 ましてや、雷魔法でも喰らおうものなら、鎧で感電して、即死だと言うもの。

 アルゾナ王国の王は、「アステラ・アルゾナ」。

 未だ若い男であるが、民からの忠誠は厚かった。


 そして、メルデス大森林の最東部に位置するのが、「オームル王国」。

 この国は、ここ数十年間他国との干渉を一切禁じていて、アルゾナ王国にいるグルダスにも、今のオームル王国がどうなっているのかは分からない。

 文字通り、誰も中を知らない謎の国である。

 元々はカルロスト連邦国の次に大きい国だったのだが、年々サルラス帝国に領土を奪われていき、今や大陸内で最小の国となってしまった。

 そしてオームル王国は、大陸内で唯一、大陸外の島を領土として持つ国である。

 その島の名は、「ガルム諸島」。

 一番面積の広い本島を含む、約五十の島で構成されていて、実際人が住んでいるのは、本島のみであった。

 最近、オームル王国の大陸部の国境に、高い壁が建てられた。

 サルラス帝国の侵攻を止める為の措置や、他国との干渉を最小限にする為の措置など、様々な考察がされているが、未だその答えは決していない。その真意を知るのは、国王のみである。

 そんな謎の国の王は、「ダイナス・オームル」。

 他国との干渉を一切禁じさせた張本人である。


 そして最後。大陸南東部に位置する、「サルラス帝国」。

 数十年前。ふと現れたその国は、瞬く間にオームル王国の領土を武力を持って奪い取り、今や、大陸で二番目に大きな国土を持つ国となった。

 その軍事力は強大で、その多くが、大量の魔法師のお陰である。

 その中でも特にヤバい魔法師が、魔法師団総長、「ザルモラ・ベルディウス」。

 その男は、大陸で唯一の“創作魔法”の使い手であった。

 創作魔法とは、魔力が尽きぬ限り、自分で魔法を構築して発動できる魔法である。

 なので、「炎魔法」を使おうとすれば炎が出るし、「水魔法」と言えば水が出る。

 風を吹かせようとすれば突風が吹くし、身体の強化もお手のもの。と言った、この世にある四つの”極魔法“の一つであった。

 絶対王政のサルラス帝国は、常日頃から帝国主義を唱えており、オームル王国の完全侵略や、アルゾナ王国への進軍を考えているという噂も立っている程、軍事に力を入れている国である。

 「カルロスト連邦国の奴隷を密かに買っている」という噂もあるが、不確かであった。

 サルラス帝国皇帝の名は、「ロゼ・サルラス」。

 素性が不確かな人物であり、民の忠誠があるのかどうか、その素顔さえも、あまり知られていない、謎の皇帝であった。




 これらの情報をエルダが完全に理解したのは、グルダスの教育を受けてから約二か月後の話であった。

 先は長いが何とか頑張ろうと、折れかけている心を何とか折れない様に自分を激励し、グルダスは、何とか持ち堪えたのであった。








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