ケーキの味だけがする

秒速で終わらせようと用意した口上を言い終えることができない

夕方の日差しもいつか手にとって愛でて鞄に入れてさよなら

ずっと夢見てたふたたび運命を両手で抱いて永遠を征く

フルーツタルトだった ヨーグルトケーキだった アップルパイだった ごめんね

海の音を聞いているからそれ以外とくに聞こえるものはないです

心臓がぎゅうぎゅう軋む音がする 身体がちょっと故障中みたい

前を行くことが当然みたいな顔をするからぜったいゆるしてあげない

指切りをして離すのをわすれてた はじまりばかり口を突いて出た

マンホールの柄を気にして歩いているからいつも下を向いています

「異常なし」毎朝電子音とともに起きる 僕はまだぼくはまだ

一日に食べる卵は一つでも多いのがいいらしくてうれしい

もぎ取った海を渡った先にある夢とか愛とか希望だとか

本文のないお手紙を受け取った 追伸追伸追伸、おわり

そんな目で僕をみないでくれますか 君とはちがう生命体です

喉奥が渇いたままだ ずっとずっと渇いたままだ 夏のせいです

氷一つ分のアイスティーを飲み終えることができない、おなかもいたい

心臓のないものばかり好むから部屋中無機物だらけが増える

遺書を飲み込んで生きていきたい、睡眠不足は強さなので

かなり強めの冷房つけてて寒くて咽せた 夏、もう思い出せない

高校生みたいな要素の歌ばかりよむくせにもう大人でくやしい

夢ばかり思い出してる 僕はまだ君に夢見てるんだろ

牛乳を飲めば飲むほどお腹をこわして今日なんかもうおしまいになる

かなしみが鈍化するたび退化する羽の醜さ まだ飛べるのか

足りてない 一瞬で凍るくらいの熱がごまかされては溶けてゆく街

少しずつ抜けていく炭酸みたいな夜ばかり経験しちゃって、だからもう

快速の電車で帰っちゃったとき運転が雑で途中駅で吐く

好きな作家の読んでない本を読んだらもう読み終わっていて嫌

誠実なひとになりたいガワくらい明日にはもうわすれてるけど

才能が通っていくたび目を瞑る あの子みたいにぜんぜんなれない

たこやきをはんぶんこした日の何が間違いだったのかがわからない

八月の断末魔みたいな日が増えた 凡人だから夏を救えない

べつにもう反対側の電車に乗ってサボりたい仕事もなくなったけど

ひとつずつ忘れていくから傲慢になれるカントリーマアムの容量

さみしさを紛らわすため手を挙げた理由も思い出せないくらいに

ギャン泣きをできる子どもなりたいし理由を言える大人にもなりたいし

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