第23話 変面を見てきた話

 日中学院の春季集中講座「黄梅劇・変面」に参加してきました。ので備忘録がてらのレポートになります。


 講師は中国伝統劇役者・変面役者として活動、日本の伝統芸能とのコラボなどもなさっている王文強先生。座学パートはご出身の安徽省の伝統芸能・黄梅劇の紹介でした。

 中国の伝統劇といえば、知名度では京劇一強ではあるものの、数多の地方劇もある──とは知識では承知していましたが、数にして三百以上の地方劇があるよ、と言われると、その数字にも自分が何も知らないことにも改めて驚きますね。京劇以外の伝統劇に触れる機会は貴重なので、その点でも参加して良かったです。


 黄梅劇は、採茶調=茶摘み歌をルーツに発展したもので、素朴で生活情緒に満ちた雰囲気、とのことでした。生活の中の物語や恋愛ものが多いから、役どころとしては生(立役)や旦(女役)が多い、とも。武将役が多いジンは比較的少ないということでしょうか。こういうところに特色が出るんですね。また、地方劇によってメインの伴奏楽器も異なる(例えば黄梅劇は二胡)とのことで、地方劇とはその地域の文化・雰囲気に密接に結びついて発展するもの、なのだとか。

 創作に絡めて語ると、公開範囲内では舞台は後宮に留まっているところ、地方視察や行幸に赴く展開も面白そう……とふわっと思ってるので、未知の芸能に触れたり異文化交流したりするヒロインたちがいずれ書けたりすると良いですね。


 雑談的に、日中の伝統芸能を比較するお話が聞けたのも興味深かったです。中国の伝統劇は今や学校に入って学ぶものなので、日本の歌舞伎などがいまだに世襲制なのは、先生が留学された当初はかなり驚かれたとか。一方で、所作の様式化=「お約束」によって観客に理解させる・表現する、という点ではかなり通じるものがあるのが面白いよね、など。例えば能では扇によって多様な場面を表現しますが、中国伝統劇でも舞台道具は最小限で表現するので、両者とも象徴化した演出をしていると言える、ようです。この流れで馬鞭マービエン(これを持ってると馬に乗っています、と示すフリンジ付きの棒)の実演をしていただけたのも貴重な一幕でした。

 見せていただけた画像・映像も、創作に活かしていきたいですね!




 そして、後半は「変面(へんめん・ビェンミェン)」の実演でした。これが見たくて受講したものです。

 変面のパフォーマンス自体はYouTubeでも見られるので、興味のある方はぜひ。なぜかほぼ必ず同じ曲で踊るのですが、なんか戦隊ものっぽい(?)テンション高くノリの良い曲で癖になります。元気がない時に視聴するのに良い……。


 本来は四川地方の伝統芸能で、演技の中で仮面を瞬時に(マジで瞬時に)つけ変えていく謎技術です。付け替えていくというか……何枚も重ねたのを剥いでいく技なのかも? 実際のところどうやっているのか、間近で見ても何も分からなかったので魔法かもしれないですね(ヤケクソ)。

 大きな扇を持ってのパフォーマンス、さらに衣装もマントなど隠せそうなところが沢山ある意匠になっているのですが、何もしてない・どこも隠してないのに仮面が切り替わった(ようにしか見えない)瞬間もあったのでほんと謎です。とりあえず、扇の動きと関係ないタイミングで切り替わったのは視認したので、扇はフェイク・注意を引き付けるためのものじゃないかとは思うんですが……。訳が分からないけどすごい! を体感できたので満足でした。変面の技術以外にも、手足や指の細やかな使い方を間近に見られたのも良かったです。


 変面の歴史についての言及もあったのですが、最初に確認されたのは明代とのこと。京劇よりも古いんですね。当初は上演中にいったん退場して仮面を付け替えた→のちに、舞台上で付け替えるようになった→色々あって現代見られるように、瞬時に仮面を付け替える技が発展した、ということのようです。二段階目と三段階目での飛躍がすごすぎない? と思うのですが、もっともっと、とやりたくなっちゃったんだろうなあ。拙作のヒロインが見たら、「すごい! どうやってやるの!? もう一回!」ってなること請け合いなので、変面もそのうち作中に取り上げたいと、思うだけは思っています。



 あとは、京劇を実際にやるほうにも興味があるんですよね……行ける範囲で体験教室がやってるところがあるのは確認しているのですが。年度末・年度初めだったり、コンテストの締め切りに追われていたりでなかなか慌ただしいので、落ち着いたころに思い切れたら、またこちらで紹介するかもしれません。

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