第8話 参考イメージをサッと出せると良いかも、という話

 中華後宮ものの執筆において、衣装と並んでハードルとなるのは建物の描写ではないでしょうか。絢爛豪華な後宮をいかに描写するかの一案として、拙作では紫禁城をモデルにしております。明朝からの首都ですし、何しろ(色々あったとはいえ)現存しているので画像検索等で参考資料も見つけやすいですしね。前回、紫禁城に言及したのはそういう事情を踏まえてのことでもあったりします。


 例えば、拙作中で皇帝の寝殿として出した渾天こんてん宮はそのまんま紫禁城の乾清けんせい宮ですし、皇后の寝殿である穣地じょうち宮は紫禁城の坤寧こんねい宮に相当するものとしてイメージしています(いずれも天地を意味する宮殿名になっているのです)。皇帝の執務の場として名前を出した濤佳とうか殿は、清の雍正帝以降の皇帝が日常を過ごした養心殿あたりにあるということに(作者的には)なっています。

 例によってフィクションならではの誇張を念頭に置かなければなりませんが、清朝宮廷は華流ドラマの舞台になることも多いようなので、その点でも視覚的資料には事欠かないかもしれません。もちろん、読者の方が実際の史跡を思い浮かべたり重ねたりする必要はまったくないのですが、作者としては殿舎の位置関係・スケール感等に「お手本」があると描写しやすいので、こんなふうに決めています、というお話でした。もちろん、史実を参考にしつつ完全な虚構を作り上げられるほうがすごいのですが、そこまで手が回る書き手ばかりではないでしょうから……繰り返すように一案としてのご紹介、ですね。


 紫禁城の殿舎の数々&そのエピソードについては下記の本が興味深かったです。

「紫禁城―清朝の歴史を歩く」 入江 曜子 岩波新書 2008年


      * * *


 ここまで語ったように、「花旦綺羅演戯」の執筆にあたっては書籍のみならず画像・動画での資料も収集し、かつ、Web上で参照できるものについてはURLのメモを蓄積しているのですが、その意図についてもう少し踏み込んでみます。もちろん、執筆上の利便性が第一なのですが、もうひとつ、あわよくば書籍化・商業化を志しているから、でもあります。


 以前、漫画家さんと漫画原作者さんのtwitterスペースにお邪魔したことがあり、「例えば中華ものなど、作画のハードルが高いと思われるジャンルが商業化しにくいということはありますか?」というようなことを伺ったのですが、その時の主催者ホストの方々の回答はおおむね以下の通りでした。「漫画家さんも資料は多数そろえているので心配する必要はない」「まずは小説として商業化に耐える品質のものを目指すことが大切」「とはいえ参考資料が提出できると漫画家が助かるかもしれない」……思えば、相手もプロの方々なのですから、アマチュアの文字書き視点で勝手に心配することこそ失礼だったのかもしれません。

 一方、私は小説をコミカライズしていただいたことがあるのですが、その際、キャラクターの容姿や世界観の設定について、原作者でもイメージしていなかった部分も細かく聞かれて焦ったのが印象に残っております。上述のアドバイスと併せると、漫画家さんが力を発揮するためには、具体的なイメージをお伝えするのが重要であり、それは作品そのもの・文章での描写だけではなく設定資料が必要な場合もあるのかな、と思います。たぶん、書籍化した際の表紙や挿絵についても同様でしょう。


 ということで、現状文字書き側でできることとしては、できるだけ明確なイメージを持って執筆すること・それを(文章に限らず)資料でも出せるようにしておくことだけなのだろう、と思います。そして、できることがあるならやっておくに越したことはないよね、というスタンスでやっているところです。

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