◆海で甘いキスを

 お巡りさんがどこかへ無線連絡を始めた。

 今だ……!


「愛海、紫藤さん……今のうちに逃げるぞ!!」


 俺は愛海の手を引っ張った。

 この隙にくしかない。


 当然、お巡りさんは「そこ止まれ!!」と叫んで追ってくる。……捕まるわけにはいかない。二人の為にも。



 走って、走って、走りまくった。



 街中の裏道を走り、海岸に出て、ようやくお巡りさんを撒いた。



「……はぁ、はぁ」


「お、お兄ちゃん。息が……」

「ここでストップしておくか」



 足を止めると、愛海が息を切らしていた。紫藤さんは割と余裕ありそうだ。だが、その表情が曇っているように見えた。どうしたんだ?



「……そっか。そうだよね」

「どうしたんだ、紫藤さん」

「ううん、なんでもない。でも、諦めたくはない……けど、今日の所は帰るわ」

「え……急にどうしたんだい?」



 俺と愛海の手の辺りを見て……あぁ。

 もしかして、手を繋いだのが愛海だったから……。


 呼び止めようとしたけど、紫藤さんは走って行ってしまった。



「行っちゃったね」

「そうだな。俺たちは海でも見ていくか」

「うん、ここ綺麗だから好き」



 浜辺に降り、そのまま海の方へ。

 海……海か。


 そういえば、愛海の名前には“海”が入っている。だからだろうか、昔から海が大好きのようだ。


 海を見つめていると、愛海が俺の頬に触れてきた。



「愛海……」

「お兄ちゃん、わたしを選んでくれてありがと」

「もちろんだ。これからも一緒だ」

「うん、わたしね、お兄ちゃんいないと生きていけない。だから」


 愛海は俺にキスしてきた。

 まったく心の準備もできてなくて驚いたけど、嬉しかった。


 [完]

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超依存系ヤンデレちゃん 桜井正宗 @hana6hana

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