Tokyo Final ――東京決戦――
主催者の北条たち、スタッフたちも賞賛の拍手を惜しまない。
「よし!」
フィチは両拳を握り締め、勝利の喜びをあらわにする。龍一は、ふう、と大きく息を吐き出し。フィチに向け親指を立てた。
ヤーナはシートに背を沈めるようにもたれかけさせた。
(あーあ、また負けたー)
ディスプレイを見る目もうつろだったが。ため息ひとつついて、気を持ち直してシムリグから立ち上がろうとすれば。優が手を差し伸べていた。
両チームのメンバーたちが裏から出てきていたのだ。
「お疲れさん」
「スパシーバ」(ありがとう)
ヤーナは優の手を借りて立ち上がった。
ウィングタイガーは、勝利と、ワン・ツーという好結果に沸いた。
メンバーたちはシムリグから立ち上がった龍一とフィチを囲んで、勝利の喜びを分かち合あっていた。
ポイント順で。
フィチ17ポイント。龍一16ポイント。ヤーナ15ポイント。
チームとしても、Forza E World GP以来の優勝だった。あの時はヴァイオレットガールが2位で間に挟まっていたが。今回はワン・ツーだ。
それから、誰からともなく、両チーム交わり合い、肘タッチや握手をし。互いの健闘を讃え合った。
「やられましたよ。完敗です」
「ええ、でも、こっちも紙一重でしたわ」
ソキョンと優は、優佳を通訳に挟んで、互いの健闘を讃え合った。
ヤーナは龍一とフィチと相対し。
「次は負けないわよー」
と、フィチの胸を拳で軽く突いた。フィチはおどけて吹っ飛ばされるようなコミカルな仕草を見せ、笑いを誘った。
それからにっこと笑って龍一に向き直る。
「で、さあ、勝ってヴァイオレットガールからのご褒美は、おあずけ?」
「や、やめてください、そんな……」
龍一は顔を真っ赤にして、しどろもどろ。
「あはは、あんた本当に面白いねえ」
と言いながら左腕を龍一の首に巻きホールドし。耳元でささやく。
「そのほっぺはヴァイオレットガールのためにとってあげるから、安心しな」
「いえ、ですから、あの、その……」
「モテる男はつらいねえ~」
なんと今度は反対側からフィチが龍一の首をホールドした。
龍一は照れくさそうにしつつも、こんなのもたまにはいいかなとか考えた。
(いいなあ、青春の1ページって感じで)
北条は3人に微笑ましさを覚えて、より笑顔になった。
司会の冬月も笑顔で、マイクをまずフィチに向けた。が、フィチだけでなく、龍一とヤーナの3人は、互いに視線を交わして頷き合った。
組み合ったまま。
せーの、と、
「ありがとう! ギャラリーの皆さん、試合を観てくれて、ありがとう! チームや主催スタッフの皆さんも、ありがとう!」
と3人一緒に声を張り上げ、感謝の気持ちを伝えた。
やや驚いたが、笑顔の司会の冬月の目に、うっすらと感動の涙が滲む。
北条たちスタッフも、ウィングタイガーにレッドブレイドのメンバーたちも、そしてギャラリーたちも。
3人の気持ちが嬉しくて、万雷のごとく響く拍手を惜しまなかった。
おわり
【eスポーツ小説】Faster Fastest R 赤城康彦 @akagiyasuhiko
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作者
赤城康彦 @akagiyasuhiko
物書きです。 公開作品をお読みくださり、まことにありがとうございます。 小説家になろうとエブリスタでも公開しています。 1974年生まれ。高知県出身。 もっと見る
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