【没エピソード】プリキュアと統一教会と私
さて、これは私が既に外の世界に出てきてからの話である。
結婚して女の子が産まれて、子供と一緒に見始めた「プリキュアシリーズ」。
娘がプリキュアを見始めたのは保育園の年少の頃だ。当時放送されていたプリキュアだけでは飽き足らず、過去のプリキュアも飽きるまでほぼ全シリーズを視聴した。
2015年だったが、まだギリギリTSUTAYAで DVDを借りる方式だった。今ならアニメの見放題の配信サブスクになるのかも知れない。
このプリキュアシリーズの過去作品の中に、「フレッシュプリキュア」という作品がある。
以下、ネタバレを含む記述になるがどうかご容赦頂きたい。
この「フレッシュプリキュア」では、全プリキュアシリーズ内でも「神展開」と評判の、「敵組織ラビリンスから、女幹部イースが寝返りプリキュアになる」というくだりがある。
女幹部と言っても、イースは主人公のプリキュアたちと同じ年頃(中学生か高校生か)という設定だ。
この「敵組織ラビリンス」というのが、まあ、なかなかのデジャブ感だ。
イースは敵組織から抜けてプリキュア側になる訳だ。このくだりは数話分が使われており、組織を抜ける彼女の葛藤が描かれる事になる。
元統一教会の信者だった私は、この「ラビリンスを抜ける直前の精神の限界状態」のイースに、かつての自分をどうしても重ねてしまう。
この文章を書くために、久々にその場面を試聴したのだが、やはり今も変わらず複雑な心情が蘇ってきた。
「メビウス様(ラビリンスの総統)のために!」
「こっちを見て、メビウス様!」
「メビウス様、メビウス様、メビウス様!」
「私は総統メビウス様が
「この命、メビウス様のためなら惜しくない!」
「どんな痛みにも耐えてみせる!」
これは実際のイースの台詞だが、まんま「メビウス様」を「お父様(統一教会の教祖・文鮮明氏)」に置き換えれば、かつての自分が全く同じ事を(心の中で)叫んでいたと言っても言い過ぎにはならない。
だいたい、声高に叫んでいればいるほど、自分を無理やり奮い立たせないと行動できなくなっている可能性が高い。現役信者が反対派の声に過剰に反発して攻撃的になるのは、声を大きくして否定しないと、自分の迷いも断ち切れない……という事はあるかも知れない。
組織やトップに対する疑問が募っている時ほど、より思い込もうとストイックになる姿勢は、アニメとは言え割とリアルだなと思ってしまう。信者全員が全員そうではないだろうが、まああり得る話だと思う。
万物復帰(資金集め)の活動中に疑問を感じても、直ぐに辞められた訳ではない。逆に、そんな事に疑問を感じないくらいに、もっと頑張ろうとするのだ。
……泣ける。
今思い起こすと、私たちに犠牲的に寄付集めをさせてる教会よりも、「そんな事してないで学生は勉強しなさい!」と言ってくれた見ず知らずの世間の人たちの方が、よっぽど私の人生を考えてくれる優しい人だったのかも知れない。
プリキュアの話に戻ろう。
結局、イースは敵組織ラビリンスから「用無し」と判断されてしまう。
しかし、使い捨てにされたイースは実はプリキュアの素質があるという事が分かり、味方側へと受け入れられる。
最初、イース本人は「私は手を汚しすぎた」と言ってプリキュアとつるむことを拒否したり、敵組織ラビリンス側であるウェスターやサウラーといったかつての仲間も、
「目を覚ませイース!」
「ラビリンスで生きてきたものがラビリンスの外で生きられるわけがない」
など、と彼女が組織に戻ってくることを期待するような台詞を言う。このあたりの展開も、新興宗教二世として生まれ育って世間になかなか馴染めない経験をしてきた私の心を揺さぶってくる。
プリキュアの過去作を見てボロボロに泣いている母を見て、娘はキョトンとするばかりである。
自分が世間に受け入れられる資格はないと思いながらも、日常で笑う人間たちを見て、イースは思う。
「この笑顔を私は奪ってきたのか」と。
結局、プリキュアとしてかつての仲間である敵組織ラビリンスを相手に戦うイース。
プリキュアになって初のデビュー戦で、しっかり活躍する。
それが世間に恥じない戦い方だ!
おめでとうイース!
……しかし。問題はプリキュアの「現実」の方である。
プリキュアというコンテンツは、「グッズ販売のために作られている」ということを忘れてはならない。
ストーリーの合間のCMは、プリキュア「キュアなんとかステッキ」だの、「キュアコンパクト」だの、コスチュームだのパジャマだのぬいぐるみだの……全部はとても揃えきれない程のグッズ展開。
そして年2回の映画動員。
プリキュアにハマった娘さんを持つ親御さんには共感していただけると思うのだが、完全に「洗脳」されている幼い娘は「あれも欲しい」「これも欲しい」「映画行きたい」と泣き叫ぶ。
まるでこれらのグッズが手に入らないと「幸せになれない」ような叫びようである。
かつて私がいた宗教組織でも、「原理講論」という「ストーリーコンテンツ」があり、そのストーリーに沿った「幸せになるグッズ(壺やら印鑑やら)」が売られている。
ああ……。
イースよ。
君は悪の組織から抜け出したんじゃないのかい?
プリキュア側についた君は、「キュアパッション」などと名乗り、早速「幸せのキュアなんとかハープ」なるものを洗脳した子供たちに売りつけようとしている……。
洗脳された子の親たちは、泣いているぞ。
それは、むしろ、「世間では『悪』だと思われている組織のやり方」だぞ!!!
こんなもの1ミリも欲しくない。しかし、子供が泣き叫んでいる……。仕方なく買い与える親もいるだろう。
「子供の気が済むなら…」
これじゃあ、これじゃあどっちが悪役か分からないじゃないか。
親泣かせの原理運動ならぬ、親泣かせのプリキュアシリーズ。
「目を覚ませイぃースぅうううぅうーーー!!!!」
と、ウェスター(かつてのイースの仲間)ばりに叫びたくなった、元二世信者の母であった。
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