【書籍化】"カルト"とマネロンと私(カルマ)
雑記きよみん
書籍化から漏れた没エピソード
【没エピソード】アフリカ出身の夫と祝福を受けた日本人女性の話
(※書籍化から漏れたエピソードです)
二世献身プロジェクトの最初の3ヶ月、日本での活動での話。
ある日本人女性で、アフリカ出身の黒人男性(医者)と祝福家庭となった信者さんが、同じマイクロ隊(寄付集めの寝泊まり出来るワゴン車)に所属していた。
仮にAさんとしよう。
彼女の話はこんな感じだ。
祝福式を前に、宿泊施設の一室に女性信者たちが集まって、ウエディングドレスを縫っていた。そこへお父様(文鮮明氏)がやってきて「先生はみんなを遠くに嫁がせることにしたよ」と言ったのだそうだ。
「え、ドレスを作っている段階で、まだ相手が決まってなかったんですか?」と私は驚いて聞き返した。
我が組織の事ながら「本当にそんな感じなんだ」とビビってしまった。
まあ、私の両親も、似たようなものだ。父と母の場合は、写真マッチングではなく対面マッチングとでも言えばいいだろうか。
まず男性を立たせて、お父様が「うーん、お前の相手は……お前だ!」みたいにその場で決めていく。
70年代当時、ニューヨークでの出来事だ。母はまだ祝福を受けたくなかったらしく、見つからないように柱の後ろに隠れていた。父の任地は日本(世界日報)だったが、マッチングと祝福式があるというで一時的にニューヨークへ来ていた。
ところが父の番が来て、アボジに立たされた時、「うーん、お前の相手はいないなぁ」と言われてしまう。
が、「あっ、そこの柱の後ろのお前だ!」と母はアボジに見つかってしまい、私の両親は無事に(?)夫婦となった。
母は当時アメリカでバリバリ活動していて、できれば日本人ではなくアメリカ人と祝福を受けたかったらしい。そうなっていたら私は産まれていなかったことになる。「別に産まれなくても良かったな」と思っていた時期が、ご多分に洩れず私にもあったが、今となっては産まれて良かったなと思っているので「アボジグッジョブ」である。
Aさんに話を戻そう。
アボジが予言した通り、Aさんのお相手はアフリカ大陸出身の黒人男性となった。
お医者様という比較的裕福な家庭に嫁いだとのことで、現地でものすごく苦労を強いられたと言う意識はなかったそうだ。とはいえ、暮らしぶりを聞いてみると、家では「土のままの床にゴザのようなものを敷いて寝る」という環境だったそうだ。
ある日、嫁ぎ先の国で内紛の危険が迫り、とうとうAさん他、周辺の日本人に、日本大使館から招集がかかった。
訳も分からず集まると、そのままチャーター機に全員が乗せられた。
そして、飛行機は有無を言わさず発進する。「え、え?」と言いながら、だんだん早く動く窓の外の景色を眺めるしかなかった。飛行機はそのまま離陸し、その時Aさんは初めて、自分が夫と離れ離れになってしまった事を悟ったそうだ。
本当に何の説明もなかったのか、気が動転して説明を聞きこぼしてしまったのか、私には分からない。20年前に一度だけ聞いた話を思い出しながらこの文章を書いている。彼女はマイクロバスの窓を飛行機の窓に見立てて、当時の状況と自分の心境をリアルに再現して説明してくれた。私にも、アフリカを不本意に後にする彼女の気持ちが伝わった気がした。
そして日本に帰国した後、彼女の妊娠が発覚する。父親と再会できぬまま手紙などでやりとりし、一人で出産したそうだ。
なんだかもう、すごく壮絶だ。結婚相手が選べないのはもちろん、相手の国の国際情勢も選べないというのは、とてつもない決心と信仰心がないと無理だ。今思い返すとそうなのだが、この話を聞いた時はこれがけしからんとか狂っているとか、そんな風には特に思わなかった。というか、今も「けしからん」とはやはり思わない。信仰を無くしたからこそ、「信仰ってすごかったんだな」とただただ感心が増すだけだ。
逆に当時はどう思ったかというと、
「そうやって世界を繋げる役割を、一世信者たちは持っているんだな」という捉え方だった。
その後、Aさんと無事に出産されたお子さんは、旦那さんと日本で再会できたと話していた。ただ、うろ覚えだが、確か旦那さんが日本に滞在し続けることは法律的に難しく、Aさんとお子さんを残し、またアフリカの母国に帰ってしまったというような話だったと思う。
日本人を家族に持つ外国人が日本に滞在を希望しても、法的な障壁が立ちはだかるという問題は、現在も続いているようだ。
つい最近の2021年にも、アフガニスタンからアメリカが撤退したことに伴って、避難民の問題が発生した。
内紛などがあった国で、日本が日本人だけを救うというやり方は、今も昔も変わっていないようだ。
マイクロ隊は1〜2ヶ月に1度しか帰らない泊まりがけのプロジェクトだ。そんなに長い間、Aさんがお子さんをどこかに預けて教会の資金集めに参加していて良かったのだろうか、と思わないでもない。
恐らく、教会が強制的に彼女をマイクロ隊に参加せたということはなかったとは思う。それでも、仮に彼女本人の強い希望があったとしても、泊まりがけで子供を長期間置いて行かなければならないようなプロジェクトに参加させていたこと自体は、問題ではなかったんだろうか。
Aさんは時々、「子供のことが心配で、精神的に辛くて活動できない」と泣いていた。正直、実績も思うように上がっていなかったと記憶している。これでは子供を置いてまで活動している意味があまりに薄かったと思う。
ただ、当時の私には子供がいなかったので母親が子供を置いて長期間留守にすることの弊害がよく分かっていなかったし、私自身が子供の時も、昔から教会系の学童に預けられるのが当たり前の環境だった。
だから彼女がお子さんをどこかに残して教会活動に参加している事を、残念だとか、本当に大丈夫なのかと心配に思うことはなかった。そう思えなかった自分が少し残念ではある。
泣いているAさんを今でも時々思い出す。そのたびに、私の常識は世間寄りになっているから、「あれは良かったんだろうか」と、年々、問題意識が大きくなる。
しかしもうこれも、20年も前の話だ。今はマイクロ隊のような泊まりがけの資金集めの隊は解体され、もう運用されていないと、風の噂で聞いた。
だからこれは教会に対する改善提案ではなく、ただの思い出話でしかない。
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