2034年1月1日土曜日

「……それで、そのあとどうなったんだよ」


「どうもないさ。隆太とぎこちなく話して、母はそれを微笑ましく見てた。母は結局僕のことに気が付かなかったよ」


「隆太とは今も縁があるのか?」


「いいや、ない。あのあと彼らは直ぐに引っ越しをしたんだ。父親が金持ちだから、転勤ついでに新しく家を建てたそうだ。隆太とはそれきり連絡を取り合ってないよ」


僕はひと通り話し終えたあと、すっかりぬるくなってしまったビールを飲み干す。すると斗真がメニューで口を隠し、僕の眼をしっかりと見ながら

「……これからはもっと愚痴れよ」と言った。僕は大笑いしながらこう答えた。


「じゃあもっと愚痴るために酒を奢ってもらおっかな」


「いいぜ!他に何か頼むものあるか?」


「ミックスフライ定食」


「……あの話した後によく食えるな」


「今日で君とさしで飲むのは最後だからね。記念に食べようと思って」


「え!?なんでだよ!?」


「はは、冗談だよ冗談」


「なんだよ脅かすなよー」


斗真はそう言って胸を撫で下ろす。

彼と飲まないことは嘘だが、ミックスフライを食べることは本当だ。偶然にも思い出してしまったこの記憶を、咀嚼するために。


「じゃあ俺もそれ頼むわ」


「無理して合わせなくていいよ」


「合わせてないぜ。俺も食べたくなっただけだ」


彼の自分本位なところは相変わらずだ。だが今日に限ってそれが有り難く感じる。誰かとミックスフライを食べることは、僕にとって非常に意味のあることだからだ。


注文したミックスフライが僕たちのテーブルに並べられる。僕は時計を確認した。


「そういえば、もうすぐで年越しだね」


「やべ!まだ蕎麦食ってねえ!かき揚げを0時丁度に食べるのが楽しみなのに!」


「これでいいんじゃない?」


僕はそう言って海老のフライを箸でつまみ上げる。


「……仕方ない、それで年越しとするか」


斗真も渋々海老のフライを持ち上げる。


0時になった。


サクっという気持ちの良い音が、今、混ざり合う。







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ミックスフライデー @hokuro1215

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